なぜプードルもチワワもダックスフンドも“いぬ”なのか?

 

●バス停のお見送り犬

 

   「クゥーン、クゥーン」と、朝のバス停に“お見送り犬”の切ない鳴き声が響く。そのたびに僕は初恋をした少年のようにキュッと胸を締めつけられる。 

 

 うちの小僧くんはバス通学をしているので時々見送りにいくのだが、たいていいつもベージュ色のプードルちゃんが同じバスに乗って出発する飼い主の娘さん(高校生)を見送っている。

 窓から手を振る娘さんを、お母さんにだっこされたプードルちゃんはドラマチックに涙して別れを惜しむ。ブォーンと音を立ててターミナルからバスが出発し、その後姿が小さくなっていく。

 やっと鳴くのをやめ、それでも見えなくなるまでじーっと見送り続ける。

 そして、お母さんに地面に下ろされ、やっと納得したように家路に向かう。

 娘さんとは夜になればまた会えるはずなのだが、犬の寿命は人間のおよそ5~6分の1程度。会えない時間は犬にしてみれば一週間近くに相当するのかも知れない。

 

 プードルは犬の中でも抜群に頭がいいとされている。

 もともと狩猟犬なので、自立して行動する力が優れている。

 獲物を取るために自分で行動をコントロールできるのだ、

 そうした自立心と人間の主人に対する忠義心とのバランスがとてもよいのだという。

 それが最近、とみに人気が高い秘密なのかも知れない。 

 

 ちなみに農林水産者が認定している法人組織ジャパンケンネルクラブに登録されている犬種(=実質的に日本で飼われている犬種)の人気ベスト3は、2010年2月の時点で、1位プードル、2位チワワ、3位ダックスフンド。

 確か2年ほど前まではダックスが1位、プードルが3位だったので、人気が逆転したようだ。 

 僕は個人的にはダックスフンドが好きだ。あの胴長短足体系でチョコチョコ歩く姿は本当に可愛い。

 ただ、あの体系ゆえ、腰などを悪くして健康障害に陥るパターンが多く、それがやや飼いにくい一因にもなっているらしい。

 

●ダックス×アナグマ

   

 ダックスフンドと言えばアナグマである。何のことかと言うと、ダックスフンドはもともとアナグマ狩り用として開発された狩猟犬なのである。 

 昨日、テレビでたまたまアナグマが出ていたので、そのことについて小僧くんと話し合った。アナグマはその名の通り、地面に穴を掘って暮らす動物だ。ヨーロッパではそのモグラ攻撃で、農家の畑の作物を荒しまくり、しかもけっこう獰猛なので、とんでもない厄介者扱いされていた。

 しかし、退治するためには奴らが潜り込む狭い穴に入らねばならないが……ということで研究開発されたのが、狭くて深い穴にも入っていける犬・ダックスフンドだったわけだ。あの可愛い胴長短足体型は、狭い地下の穴の中で、獰猛なアナグマと血みどろの戦闘をするために肉体改造されたものなのである。 

 

●犬をめぐる不思議と人間の認識能力

 

 この「アナグマの穴に入っていける犬を作っちゃえ!」という人間の発想、および、研究開発力って、よく考えたらものすごい。

 いったい犬の交配の技術というのは、どのように編み出され、発展してきたのだろう? ちょっとだけ調べようとしたことがあるのだが、一般の書籍でもインターネットでも、そうした交配技術に関して書かれたものにはまだお目にかかっていない。

 

 これは何か専門書とか、秘伝の書みたいなものがあるのだろうか? 

 ブリーダーになる人はそうした交配の歴史なども専門知識として学ぶのだろうか?

 

 さらに考えていくと摩訶不思議なのが、僕たち人間の犬に対する認識だ。他の動物、身近なところで、たとえばネコなどは異なる種類でも、せいぜい大きさ・体毛や尻尾の長さなどが違うだけで、そんなに外見上の変わりはない。ところが、犬のバリエーションはとんでもなく幅広い。 

 

 いったい僕たちはどうして、プードルもチワワもダックスフンドも、ラブラドールレトリバーもブルドッグも秋田犬もセントバーナードも、みんな同じ“犬”であると認識できているのだろう?

 

 どうしてキツネやタヌキやオオカミは、仲間ではあるけれども犬とは別の生き物だと分かっているのだろう?

 

 いったい犬を犬たらしめているものは何なのだろう? みんな、もともとはオオカミなんですよ、と言われて納得できるだろうか? 

 

 こんなに身近にいるのに、いや、身近だからこそ、犬はミステリアスな存在である。

 複雑怪奇な人間という生き物と同じ社会の中で長い間付き合っているので、彼らも複雑怪奇になってしまったのか?

 単に可愛いとか役に立つだけではない。いまや犬の存在は、宇宙のように広くて深いものになっている。  

 

 

2011・6・3 MON