つかこうへいとの劇的再会

 

 昨年死去した劇作家つかこうへいの一周忌追悼公演「新・幕末純情伝」。

 すごくよかった。ボロボロ泣けた。

 つかこうへいの魂が舞い降りてくるような舞台だった。

 

 僕は若かり頃(1980年代)、演劇をやっていたが、あの時代の演劇人はみんなつかこうへいの影響を受けていた。

 その記憶は今は血となり肉となり、現代の舞台劇のそこかしこに息づいている。

 今の日本の現代演劇はみな、多かれ少なかれ、つか演劇のバリエーションと言っても過言ではない。   

 

 僕がはじめてつかの芝居に出会ったのは、忘れもしない1980年4月、紀伊国屋劇場で観た「熱海殺人事件」だった。

 名古屋で高校演劇をやっていた頃は、話には聞いていたものの、観ることが出来なかっなかったが、上京して最初に観たのがこの舞台だった。

 平田満、加藤健一、そして今は亡き三浦洋一も出演しており、その演技に圧倒された。

 

 今回の「新・幕末純情伝」は、あの30年前の感動、そして、その1年後くらいに観た「蒲田行進曲」の初演を髣髴とさせた。

 役者達は皆、けっしてうまくはないけど、つかのセリフがしっかり肉体化されており、若き頃のつかこうへい事務所のスターたちを思い出させてくれた。  

 

   話は、新撰組の沖田総司が実は女であり、坂本龍馬と恋仲になるという、それだけ聞けば荒唐無稽なものだが、僕達が知らされている幕末・維新の歴史は、実は明治政府のでっち上げで、こっちの方が真実に近いんじゃないかと思わせるほどの説得力がある。

 それはつかこうへいが人間の本質を見極めており、それに基づいたドラマ・セリフを創っていたからだ。

 そして、役者がそれを「上っ面だけでなく、身体の血や肉になるほど沁みこませていたからだ。

 それが観客の身体に響いた。僕のようにつか体験を持つ人間には特に大きく。こんなに見ごたえのある舞台は本当に久しぶりだった。

 改めて、役者の身体以外何もないシンプルな舞台から、日本の現代演劇を根底から変えた劇作家・演出家の偉大さに敬意を払いたい。 

 

 

2911・9・15 THU