ヨルとネル:心のツボによく響く少年ドラマ

 

 先月末の入院中、本が読みたくなって、読書家の息子におまえのおススメを何冊か持って来いと言ったら5冊くらい持ってきました。

 「ヨルとネル」(施川ユウキ)はその一冊。マンガです。

 

 身長11センチの小人の少年二人の旅。いわばロードムービーのように物語は進んでいきます。

 

 空き家の風呂に落っこちて出られなくなり、脱出のために排水溝から髪の毛を集めてきて縄梯子を作るとか、糸ようじをノコギリのように使って池の鯉を殺して食ったりとか、カップ焼きそばの空きがらの船に乗って一寸法師のように川を下るとか、ダウンサイジングした世界観とそこで展開する冒険譚、そしてサバイバル術が妙にリアルですごい。

 

 絵はかわいいし、それぞれのエピソードは4コマオムニバスとでも言えばいいのか、独特のスタイルで連なっており、ギャグも詰まっていて読みやすい。

 前半はギャグマンガかと思えるほどですが、後半へ進むにつれて、しだいに緊迫感と哀調を帯びてくる。

 というのはこの二人はある収容所で実験材料にされており、そこから逃げ出してきたというバックスト―リーがあるからです。

 当初、作者はそのバックストーリーと逃亡の旅のエピソードを交互に描くつもりだったと言いますが、結局、収容所の話はすべて省かれ、その分、旅の中で小人として生きる悲しみが強調された感があります。

 

 登場人物は最初から最後までヨルとネルの二人だけ。

 普通サイズの人間は声だけか、巨人の足としてしか出てこない。

 

 けれども読み進めるうちに、僕ら普通サイズの人間もこれとまったく同じではないか、姿の見えない巨大なシステムに取り囲まれ、日夜追い立てられているばかりじゃないかと感じます。

 

 そして二人はラスト間際、衝撃的な物体と出くわし、自分たちの旅の行きつく先を悟ってしまう。その物体が何かはネタバレになるので書きませんが・・・もう涙なしには読めません。

 

 病院という特殊な空間で読んだせいもあるだろうけど、ひどく心に響く物語。そしてその響き方が昔見た懐かしい少年ドラマのようでした。心のツボはいくつになっても変わらないようです。