「悠々自適の幸福な未来」が待ってるはずだった

 

 定年退職とも退職金とも縁がないその日暮らしを続けているので、どうもピンと来なかったが、あるご婦人の話を聴いて、定年後のご夫婦の暮らしをリアルに感じた。

 

 旦那さんが退職して約10年。彼は昔ながらの日本の男、わりと大きな会社のもと企業戦士である。

 

 まるでドラマのキャラクター設定のマニュアル通りで、家事など一切しない。

 特に熱を入れてる趣味もなく(疲れちゃってそうそう身を入れて取り組めないらしい)、あまりどこかに出かけるということもなく、三度が三度、家で食事をする上に、レトルトや冷凍食品を使った手抜きは許さない。

 毎晩、晩酌をするのでつまみも必要。かわきものはNG。

 お茶も自分で淹れない。

 そしてもちろん、奥さんが自分を置いて外出するのには嫌な顔をする。

 

 日々の生活習慣から生じるストレスというのは怖ろしい。

 おかげで奥さんは溜まったストレスによって、体調を崩してしまった。

 

 旦那さんは自分が原因であるとはつゆほども考えない。

 べつにギャンブル狂いでもなく、愛人をつくったわけでもなく、まじめに勤め上げて、退職金も年金もいただいて、夫婦で悠々自適の生活を送っているはずだった――、いや、現に送っている。

 なのに妻の口から出てくるのは恨み節でしかない。

 

 「いったい何の不満があるのか」と、男が論理を滔々と説いても、女には通用しないんだろうな、やっぱり。

 

 でも定年退職した時点で、少なくとも2~3年のうちに、奥さんからも何か旦那さんが生き方を変えられるように働きかけをしなくてはならなかったんじゃないの?  と思えてならない。

 

 日本中にこういうご夫婦が増えているのだろうか。

 それで「人生100年」なんて言われた日には、ゼツボー感で気が遠くなってしまいそうだ。

 

 「悠々自適」という口当たりのいい言葉は、大いなる幻想を含んでいる。

 僕のようなその日暮らしも困るだろうけど、明日のために今日を犠牲にするような生き方が本当にいいのかどうか、よく考えなきゃいけない時代になっている。