ボロ市と天使

 

「わたしは賑やかな所が好きなのよ」

と言うのが、最近の義母の口癖になっている。

 

公園やうちの住宅街の周辺を歩くと、

「人通りの少ない、さみしいところね」などとほざく。

 

公園や住宅街が新宿や渋谷の繁華街みたいに

人でごったがえしてたら困りますよ、お母さん。

あ、そうか――

といっても5分もすればもう忘れてて、

また同じセリフを繰り返す。

 

相手は認知症なのでしかたない。

しかし、というか、だから、というか、

時々、彼女が地上の人間界を

視察に来た天使のように見える。

 

そこで今日は天気も良いし、今日は

義母とカミさんと世田谷のボロ市に行ってきた。

今シーズンの初日、少々寒いがピーカンで、

しかも日曜日と重なったのですごい人出だ。

 

ボロ市は毎年1月15・16日、12月15・16日の4日間、

路面電車でおなじみ、東急世田谷線の

世田谷駅と上町駅の間で開かれている。

 

天正6年(1578年)に小田原城主・北条氏政が

このあたりで楽市を開いたのが始まりで、

400年以上の歴史がある。

 

最初は古着や古道具など農産物等を持ち寄ったことから

「ボロ市」という名前がついたとされ、

今は代官屋敷のあるボロ市通りを中心に、

骨董品、日用雑貨、古本などを売る露天が立ち並ぶ。

 

僕が目をひんむいたのが、

江戸時代、明治~戦前の時代の教科書を

まとめて売っている露店があったこと。

いったいどこからこんなものが出てきたのか。

 

明治時代のものはなんとか2~3割読めるが、

江戸時代の教科書なんて、

何が書いてあるのかチンプンカンプンだ。

 

天使さんは僕らがお供について

賑やかな場所に来られたのが、楽しいらしくい。

 

最近、とみに元気になって食欲も旺盛。

今日もお昼に入った蕎麦屋で、

天丼を1人前ペロリと平らげ、

「全然疲れてないわよ」などと言う。

その言葉通り、健脚ぶりを発揮。

僕とカミさんのほうがよっぽど疲れた。

 

3時ごろまでウロウロして、

義母には外出時用の肩掛けポシェットと、

古着屋で気に入った

300円のノルディック柄のパーカーを買った。

 

あんまり電車が混まないうちに帰ってきたが、

帰り道では、そのポシェットとパーカーを見て、

「これ何?」「これ誰の?」

と言っていた。

 

でも、今日の視察には満足したようで、

夕食を食べた終えたら、ほどなくしてAngel Sleep。