「みみずくは黄昏に飛び立つ」は、書き手・聞き手のバイブル

 

ちょうど100年前に書かれた芥川龍之介の「地獄変」と同じく、
みみずくが作品世界の象徴のように登場する現代の傑作が、
村上春樹の「騎士団長殺し」です。

 

村上氏が「地獄変」を意識したわけではないでしょうが、
この物語も主人公は絵師(画家)で、
何やら現代版の地獄めぐりをイメージさせる物語になっています。

 

この本は芥川賞作家の川上未映子氏が
2015年から2017年にかけて行った
村上氏へのインタビューをまとめたものです。

時期が「騎士団長殺し」の執筆時期と前後していたので、
川上氏がかの作品に登場する「みみずく」と、
「ミネルヴァのふくろう」

(ローマ神話の女神が従える知恵の象徴)を
かけ合わせて考案したようです。

 

昨年末に文庫版が出ましたが、
これも文章書きやインタビュアーなら、
バイブルにしたくなるような傑作です。

 

べつに小説を書いたり、創作活動などやってなくても、
仕事やら、ネットでの活動やら、何らかの理由で、
人に読ませる/読んでもらう文章を書く人なら、
あるいはインタビューをしたり、

質の高いヒアリングをしたい人なら、
参考にできるところがいっぱい見つかると思います。

 

この本に限らず、村上氏はエッセイやインタビューで
しばしば自らの執筆作法について語っていますが、
これは彼個人にだけでなく、普遍的に通じる法則だなと思います。

 

ただし、あくまで時間をかけて、コツコツ書く――
ということを前提とした話なので、
「速く、手っ取り早く、効率的にうまい文章が書きたい」
という人はそれ用のマニュアルを使ってください。

 

誤解を恐れずに言えば、
村上春樹という作家が世の中にもたらした最大の功績は、
多くの人たちに
「誰でも、普通の人でも、物語を作り出すことはできる」
と思わせたことです。

 

かつて作家とか芸術家の多くは「狂気の天才」でした。

芥川の「地獄変」の主人公の絵師のように、
作品を生み出すためなら
家族や大切な人たちを犠牲にして構わない。
そんな邪悪で醜悪で狂気に侵された人間でなければいけない。
少なくとも世間の常識から逸脱した生き方をしなければだめだ。

長い間、人々そんなイメージを持っていました。

 

もちろん古今東西そんな作家や芸術家ばかりでなく、
まともな職業につき、社会活動を行い、

良き家庭人として生きる傍ら、

後世に残る名作を生みだした
作家や芸術家は大勢いました。

 

しかし、そうではない人たちのクレイジーな面、

強烈に個性的な面がクローズアップされ、

誇大広告的に流通していました。

人々がそうした非日常的なものを作家や芸術家に求めていた

という側面もあると思います。

 

そうしたイメージを覆し、
普通に生活しながら、

机に向かって手を動かじ続ければ誰でも書ける――
ということを村上氏は広く伝えたのです。

もちろん、そう伝えることができたのは、
同氏がこの40年間、リリースしてきた作品が、
ことごとく僕たちの心をつかむ優れたものだったからです。

 

川上氏は村上氏の全作品はもちろん、
これまでの様々なエッセイや書簡、
インタビュー、雑文などの類も読み込んで、
計4回、最後は村上氏の自宅にまで乗り込んで
インタビューに臨み、話を引き出しています。

 

ちょっと固い文学論的な対話から、
思わず声に出して笑えるジョークや軽口、
そして、すぽっと懐に入るような質問の投げかけなど、
よくぞここまで胸を開かせた・・・と感心することしきり。


時折見せる、川上氏の小学生の女の子のようなテンションや、
関西弁によるコミュニケーションも
うまく作用しています。

 

創作活動にしても、インタビューにしても、
本番の、その場でしか発生しないスパークを
いかに瞬間冷凍するかが勝負、
ということを改めて思い知らされました。

 

そのためにはアスリート同様、
日常のたゆまぬトレーニングが不可欠だということも。

まさしく奇跡のような対話の記録であり、
生き方のバイブルにもなり得ます。

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