電子書籍「子ども時間の深呼吸」より 「天才クラゲ切り:海を駆けるクラゲ」

 

「子ども時間の深呼吸/おりべまこと」
明日7日16:59まで無料キャンペーン中。
ブログ「DAIHON屋のネタ帳」から
40編のエッセイを厳選・リライトしましたが、
本日はひとつ立ち読みしていってください。
ブログの中でも大人気の記事を収録。

 

「天才クラゲ切り:海を駆けるクラゲ」(初出:2014年8月4日)

 

「クラゲ切り」とは聞きなれない言葉だと思うが、要するに石切りのクラゲ版。息子は石切りが得意だがそれは川で、海ではクラゲ切り、というわけだ。


彼がチビのころは毎年、鎌倉や湘南の海へ海水浴に行っていた。仲のいい友だちも含め、三~四人のガキどもをまとめて連れて行く小旅行だ。小学四年生くらいまで夏休みの恒例行事だった。


その日はまだ八月初旬だった。
藤沢から江ノ電に乗り、終点・鎌倉から三つ手前「由比ヶ浜」に到着。駅から十分程度歩いて、いよいよ海だ! 波もほどほどにあり、ガキどももサーフィンの真似事などをして大はしゃぎしていた。
けれども僕は入ってしばらくすると異変を感じた。何か半透明の白いものがあちこちにぷかぷか浮かんでいる。クラゲだ。異変とはミズクラゲがうようよいることだった。


ところが、あろうことか息子たちはこのクラゲを捕まえて、クラゲ切りを始めた。クラゲを平たい石に見立て、海面へ向かって石切りのごとく投げるのである。


「クラゲが石のように跳ねるわけねーだろ」と、ふつう思うが――しかし!
息子がサイドスローから繰り出したクラゲは、ピッピッピッピツピッと、五回ほど(スピードが速くて数え切れない)海面を跳ねたあと、海中に沈んだ。


「まさか、あり得ねー」という光景が目の前で展開する。
それはTVゲームの黎明期を飾った、かのスペースインベーダーが宇宙空間をスキップするかのような動きだった。ガキどもは次々とクラゲを切りまくり、多いときには七回でも八回でも海面上をクラゲが跳ねた。


そう言えば、「おさるのまいにち」(作・絵:いとうひろし/講談社)という絵本のなかで、南の島で平和に暮らすおさるたちが毎日バナナ食って、おしっこして、カエル投げをして遊ぶ・・・というフレーズがあったが、あの「カエル投げ」とはこれと似たものなのかと、このとき初めてリアルに理解した。


のんびりぷかぷか浮かんでいたクラゲにしてみればいい迷惑だと思うが、意外と、滅多にないスリリングな体験ができて楽しかったのかもしれない。そのあたりの気持ちはクラゲに聞いてみないと分からない。


というわけで遊んで、帰りも江ノ電に乗り、夕暮れの海に別れを告げて帰宅。息子とその友だちは家に泊まり込んで大騒ぎの状態だった。子どもらを連れて海に出かけたのは、これが最後だったのではないかと思う。


それにしても、いま振り返ってもすごい。「うちの子、天才!」と親ばか丸出しで叫びたいくらいだった。「クラゲ切りワールドカップ」があったら絶対優勝できると、その時思った。この類まれなる才能を伸ばすため、僕は「クラゲ切り養成ギプス」を開発しようかと考えたくらいだ。やはりどんな子どもにも必ず一つは秀でた才能があるのだ。


問題はうちの場合、それが「クラゲ切り」という、世の中で何の役にも立たないものだった、ということである。
でも、あんなエンターテインメントは一度きり。もう生涯見られないだろう。 あれで少なくとも親父に対しては十分に親孝行してもらったので、あとは自分のために生きてほしい。


ところで万が一、これを読んで自分もクラゲ切りをやってみようと思ったら、クラゲは白いミズクラゲですから。毒のあるクラゲには十分注意してください。

 

 

だれの心のなかにも「子ども」がいる。
自分のなかにいる子どもにアクセスしてみれば、
何が本当に大切なのか、何が必要なのか、
幸せになるために何をすればいいのか、どう生きるのか。
自分にとっての正解がきっとわかる。
〈少年時代の思い出〉×〈子育て体験〉×〈内なる子どもの物語〉で
モチモチこね上げた おりべまことの面白エッセイ集。
自身のブログ「DAIHON屋のネタ帳」から

40編を厳選・リライト。

 

もくじ
・大人のなかの子ども、子どもの中のおとな 
・ちびちびリンゴとでかでかスイカ  
・天才クラゲ切り:海を駆けるクラゲ 
・子ども時間の深呼吸  
・親子の絆をはぐくむ立ちション教育
・大人になるとわかる? サンタのプレゼント 
・お年玉はムダづかいしよう! 
・星や月を見て何のトクになるのだ? というお話 
・ベビーカーを押す男 
・旅する本屋のおじさん 
・あの世に行った父と話す 
・子どもの日とお年寄りの日のコラボ
・子どもはイヌ時代を経てネコ化する  
・世界で一つだけ、人生で一度だけの卒業 
・星のおじいさまと孤独なエイリアン 
・子どもはどうしてロボットが好きなのか?
・少年小説のバイブル「スタンド・バイ・ミー(死体)」
・女目フィルターの少年像と少女版スタンドバイミーについて
・子どもの自殺防止は不登校体験者にまかせよう! 
・夢と現実が交わる座談会
・でめきんをめぐる追憶 
・ぐゎぐゎタオルと世界共通言語 
・戦争の記憶と戦争文化体験
・子どもや動物にモテる妻とモテない夫のミステリーとハッピネス
・卒業式の詩と死
・ちょっと切なくて笑えるネバーエンディングな少女のバレエ物語 
・男が踊り出す日 
・新聞少年絶滅?物語 
・続・新聞少年絶滅?物語:まかない付き・住み込みOKの光と闇
・二階のお兄ちゃん
・父親としての誕生日に「父親の誕生」を拾い上げる 
・忍法影分身と忍法影縫いに関する実験と考察  
・雪降る日は若き血潮がたぎる 
・雪と少女 
・大人の事情と自分の中の子どもの虐待
・働くシングルマザーと生活保護のシングルマザーの価値観 
・子どもの声と「人類の子供たち」  
・子どもと大人の狭間で人間は自分の一生を俯瞰する
・楽しい思いをさせてくれた子どもたちにありがとう  
・海から山への旅 

 

 

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