週末の懐メロ㉜:パンク蛹化の女/戸川純とヤプーズ

 

月光の白き林で

木のの根掘れば蝉の蛹の幾つも出てきし

嗚呼 嗚呼

それは貴方を思い過ぎて変り果てた私の姿

月光も凍てつく森で

樹液啜る 私は蛹化(むし)の女

 

何時の間にか貴方が

私に気づくころ

飴色の腹持つ

虫と化した娘は

不思議な草に寄生されて

飴色の背中に悲しみの茎が伸びる

 

カノンの旋律に

昭和のアングラ演劇を思わせる

女の情念のような詩を乗せ、

少女のように歌う戸川純。

 

「蛹化(むし)の女」を初めて聴いたのは

1984年のことだった。

ソロデビューアルバム「玉姫様」の

最後を飾るその歌声に戦慄が走ったことを憶えている。

 

蜷川幸雄も蜷川実花も

あまりに切なく美しい

この奇怪で文学的な純愛歌を愛し、

舞台や映画の劇中歌として使った。

 

それを自らの手で叩き潰したパンクバージョンは、

ライブのラストナンバーとして歌い続けられた。

 

昔はその狂いっぷりにドン引きして

まともに聴けなかったが、

還暦を過ぎて再び巡り会った今、

一気に脳髄に食い込んできて、血を逆流させる。

 

戸川の絶唱とヤプーズの壮絶な演奏に

ただただ感涙するのみ。

 

そして最後の投げキッスが可愛い。

 

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僕らの時代の妄想力

 

ビートルズをきっかけにロックが劇的に進化し、ポップミュージックが世界を覆った時代.僕たちのイマジネーションは 音楽からどれだけの影響を受け、どんな変態遂げたのか考察する、おりべまことの音楽エッセイ集。