日本人の心情に訴えたゼレンスキー演説

 

ロシア・ウクライナの戦争が長引くにつれて

プーチン大統領が20世紀の戦術を

そのまま踏襲しているのに対し、

ゼレンスキー大統領が21世紀型の戦術で

勝負しているのが明らかになってきた。

 

彼は卓越した戦術家であり、営業マンであり、

広報のエリートだ。

武力でガチンコ勝負したらロシアに叶うわけがない。

最初からそのことはわかっていて、

情報戦(正確には「認知戦」というらしい)

で勝負する戦法だ。

 

大衆はある程度、善悪で単純化して

わかりやすくものを観ようとする。

ゼレンスキー大統領は最初の段階で、

ロシア=大国=悪・侵略者、

ウクライナ=小国=善・被害者

というイメージを世界に与えることに成功した。

 

これは功を奏し、

世界の主要国の多くはウクライナの味方に回っている。

さすがに当初のようにゼレンスキー大統領を

英雄視する見方は薄まってきたようだが、

それでも初期の印象・図式は強力で、

少なくともいわゆる民主主義国家の国民の大半は

ウクライナに同情し、共感を寄せていると思う。

 

各国で行うスピーチも練りに練られ、

その国・国民に合わせてツボを押さえている。

アメリカのオバマ元大統領についていた

専属のスピーチライターについての話を

読んだことがあるが、

ゼレンスキー大統領にも

かなり優秀なスピーチライター・広報ライターが

ついている。

 

今日の国会での演説は実に見事に

日本人の心を動かした。

特に「復興」という言葉が効果的だった。

 

あの演説を聞いた日本国民の大半は、

太平洋戦争で焦土と化した東京・広島・長崎、

阪神淡路大震災の神戸、

3・11の東北各地のことを思い浮かべ、

かつての日本と現在のウクライナのイメージを

ダブらせただろう。

「核兵器」や「サリン」といったワードも

効果的に入れ込んだ。

 

あくまで私見だが、ゼレンスキー大統領は

キエフなどの都市が破壊されるのは

仕方がないと諦めているのではないだろうか。

その焦土に戦後日本のような新たな国・新たな都市を

建設するヴィジョンを抱いているのではないだろうか。

 

日本は今回の戦争において欧米のように

武器や情報を提・協力するといった加担はできない。

それよりも戦後の復興をにらんだ協力関係づくりに

徹しているように感じた。

そしてそれがまた控えめに感じられ、

好感を呼んだはずだ。

 

彼の狡猾ともいえるやり方に反感を感じ、

悪く言う人もいるが、国のトップである以上、

国益と国家の未来を第一に考えて行動し、発言し、

他国に働きかけるのは当たり前である。

 

そういう意味では21世紀の政治家として、

政治家っぽくない部分も含めて

プーチン大統領より上を行ってるのではないかと思う。