20世紀の絶対悪ナチスを利用する21世紀の悪魔の影

 

ロシア戦勝記念日。

プーチンが拠り所にするのは、ナチスに対する聖戦。

ウクライナに巣食うネオナチのせん滅。

 

「ナチス」という言葉には

恐るべき悪のエネルギー、

死と虐殺のイメージがまとわりついている。

実際に1930~40年代のナチスドイツによって、

ヨーロッパ各地で人類史上最悪の

ジェノサイド、人権蹂躙が行われたのは事実なので、

そんなのイメージだけだ、とは言わない。

 

けれども「ナチス」「ファシスト」と言って指を指せば、

その人・組織・団体は悪い奴らだから潰していい、

と単純に人に暗示をかけてしまうのは問題だと思う。

 

思えば僕たちはこの77年間

「ナチス絶対悪の世界」で生きてきた。

かつての同盟国だった日本ですら(日本だから?)、

僕が子ども・若僧だった戦後20年~40年くらいの頃、

つまり昭和40~昭和60年

(1960年代後半~80年代前半)あたり、

現実と離れた世界でなら抵抗感がないためか、

子ども向けのSFマンガやアニメには

「世界征服」「地球支配」「人類滅亡」

などのワードとともに、ヒトラーやナチスを模した

悪のキャラクターや組織が多数登場した。

 

ビッグX、宇宙少年ソラン、ジャイアントロボ、

新造人間キャシャーン、仮面ライダー、

マジンガーZ、宇宙戦艦ヤマト・・・

 

そういえば、仮面の忍者赤影は時代劇なのに、

トンデモ科学力を駆使する卍(まんじ)党という

悪の忍者軍団が出てきた(だから面白かったのだけど)。

あれもナチスのイメージが反映されていた。

 

ついでに「キン肉マン」とか「リングにかけろ!」とか、

少年ジャンプのバトル系マンガでも。

 

いまは史実に基づく映画・ドキュメンタリーを除いて、

フィクションの分野では絶対にメディアに出せないが、

ハーケンクロイツやナチス的敬礼も

頻繁に目にした気がする。

 

裏返して言えば、悪役としてとてもカッコよく、

知的で格も高いので、子供・若者の気を引いたのだ。

 

誰もあまり言わないけど、

ナチスの軍服のデザインはめっちゃ優れていると思う。

だから当時のドイツの若者が大勢ナチスに入りたがった。

 

それほど強力なナチスの悪のパワーだが、

かの組織自体は77年前に滅んでいる。

ネオナチという、その残党も確かにいて、

ヤバイ連中なのだろうが、

そんなに大きな力を持ち得ているとは思えない。

 

「ナチス」「ファシスト」はわかりやすい記号だ。

その絶対悪の記号を隠れみのにして、

この77年でナチスを凌駕する得体の知れない悪魔が

この世界の裏側で育っているのではないかと恐れている。

 

ヒトラーやナチスを悪魔、大罪人として裁いて

正義は勝った、世界は平和になった・・・

と話が収まっていた時代はとうの昔に過ぎ去っている。

 

国籍問わず、「ナチス」「ファシスト」といった

20世紀の悪に対する言葉・イメージを巧みに操り、

20世紀人のトラウマを刺激しようとする連中にこそ、

僕たちは注意しなければいけないのではないだろうか。

 

世界や歴史に関してのお話にも、

おりべまことのエッセイで軽く出逢ってみてください