週末の懐メロ84:さよならレイニーステーション/上田知華+KARYOBIN

 

1980年リリース。

昭和の時代、列車は人生の旅路を表すモチーフであり、

駅はそれぞれのドラマが交錯する舞台だった。

だから駅を題材に別れや旅立ちを描いた歌が

たくさんあった。

この曲もその一つで、いわば「なごり雪」の雨バージョン。

 

けれども素晴らしく新鮮だった。

 

フォークでも歌謡曲でもない、

クラシックを基調としたポップス。

いや、ポップスの姿をしたクラシック。

 

こんなユニークな音楽を創っていたのは、

昔も今も、そして世界中を見渡しても、

上田知華+KARYOBIN(カリョービン)だけだ。

 

グループの中心・上田知華は、東京音楽大学在学中に、

みずからのピアノとヴォーカルに

弦楽四重奏(ヴァイオリン×2、チェロ、ビオラ)を

組み合わせた

ピアノクインテットを結成し、1978年デビュー。

 

KARYOBIN(カリョービン)は「迦陵頻伽」。

仏典における上半身が人で下半身が鳥、

美しい声で歌うとされる想像上の生物。

西洋のセイレーンや人魚に似ている。

 

4年間に通算6枚のアルバムをリリースし、

クラシックの技術・表現力を基盤にした、

数多の優れた楽曲(すべて上田のオリジナル)

を生み出した。

 

特に当時の人気イラストレーター・山口はるみが

ジャケットデザインを担当した

3~5枚目のアルバムの充実度は抜群で、

「パープルモンスーン」や「秋色化粧」は

コマーシャルソングとして使われ、ヒットした。

 

「さよならレイニーステーション」は、

3枚目のアルバムのラストナンバーで、

ライブのラスト、アンコールとしても

よく演奏されたようだ。

 

数秒で涙腺が緩むようなイントロのストリングス。

美しく品格があり、

それでいて親しみやすいメロディライン。

のびやかで繊細な歌唱、

胸の奥深くに余韻を残す五重奏の劇的なエンディング。

このグループの魅力を凝縮した代表曲である。

 

KARYOBINでの活動と作曲力が高く評価された上田知華は、

この頃から松田聖子らアイドル歌手に

数多くの楽曲を提供していた。

 

この曲も当時のアイドル・倉田まり子が歌っていたが、

表現力と音楽の品格の面で

このオリジナルははるかに上回っている。

 

上田はグループ解散後、

ソロアーティスト・作曲家として活動。

テレビドラマの主題歌になった今井美樹の

「PIECE OF MY WISH」がミリオンセラーになった。

 

ひとり暮らしを始めた頃、

プログレやテクノやニューウェーブを聴く一方で、

清涼な湧き水のような潤いを与えてくれた

KARYOBINのレコードは、

不安定な心を癒し、

人生の一時期を支えてくれた。

 

あれから40年あまりの月日が流れた。

 

知らなかったが、コロナ前の2018年、

KARYOBIN40周年の復刻盤CDBOXが発売され、

記念のコンサートも開かれたという。

 

しかしその後、上田知華さんは病に倒れた。

ちょうど1ヵ月前の4月27日、訃報が公にされ、

半年前、昨年(2021年)の9月に

亡くなっていたことが伝えられた。

 

音楽人生をやり遂げたのだろうか。

才能をすべて出しきっての終わりだったのだろうか。

そう信じたい。

 

たくさんの美しい曲をありがとう。

心からご冥福をお祈りします。

 

さよならレイニーステーション

きみを忘れはしない。