安西水丸「青の時代」のシュールな詩情

 

僕にとって安西水丸といえば、

1980年代の村上春樹のエッセイ集

「村上朝日堂」などのイラストでなじみがある。

 

いわゆるヘタウマっぽい、とてもシンプルで

ちょっとトボけた味のある絵で好きだった。

2014年に亡くなったのを聞いた時は、

もうあの絵が見られないことにけっこうがっかりした。

 

じつは安西水丸氏はイラストだけでなく、

小説やエッセイストを書いたり、

デザイナーであり、絵本作家でもあった才人である。

 

これは彼が30代の時に

1970年代の伝説の漫画雑誌『ガロ』で発表したマンガ。

というか、絵物語とかアートに近い。

 

舞台はおもに彼が少年時代を過ごした

千葉県房総半島の海辺の町。

 

時代はもちろん昭和なのだが、

どこか時間を超越した異郷のような風景が、

独特のシンプルな線の絵で描かれており、

どこか寺山修司の世界と共通するシュールさがある。

 

奇妙な顔をした、

おそらく作者自身をモチーフにした少年と、

それを取り巻くエロチックで、

陰と哀しみをたたえた女たち。

怖ろしいほどの引力を持った詩情あふれる世界。

 

改めて安西水丸の才能に圧倒され、

何度も読み返してしまう。

 

最後に収録されている「二十面相の墓」は

作家・嵐山光三郎の小説を漫画化したもの。

 

発行はCrevisという会社で、

1980年に青林堂から出された同タイトルの復刻版である。

 

娘である安西カオリ氏が序文を、

嵐山光三郎氏が解説。

同作に関する水丸氏の1994年の

インタビューも収録されている。