ヒトとブタは神目線ではブラザーなのか?

 

マイナビ農業の仕事で、

ハラールに関する8千字の記事を書いた。

「ハラール」とは、ムスリム(イスラム教徒)にとって

「許されたもの」。

これに対して禁じられているものは「ハラム」という。

これらは彼らの聖典であるコーランに記されている。

 

このハラムで有名なのが、豚肉とアルコールだ。

ロンドンのレストランで働いていたとき、

職場の仲間にエジプト人のムスリムがいて、

彼は酒が好きだった。

さすがにそんなにガバガバとは飲まなかったが、

チビっと飲んでは酔っぱらっていた。

 

地元の国ではどうだか知らないが、

外国に在住しているムスリムの間では、

アルコールの禁忌については割と甘いようである。

 

けれども豚はダメだ。

彼もけっして豚肉は食べず、

賄いでトンカツやハムカツが出てくると、

オー!と、天を仰いで嘆いていた。

 

それにしても疑問はやはり、

なぜイスラム教は豚を禁忌としたかである。

「豚は不浄の動物だから」というのは

どうも説得力がない。

 

豚は本来、きれい好きな動物で、

豚小屋が汚いというイメージは、

むしろ飼う人間の側の問題・責任である。

 

それよりも有力な説は、イスラム教の創始者とされる

預言者ムハンマドが生きていた時代(7世紀はじめ)、

中東地域(現在のサウジアラビアあたり)で

豚肉が原因となって疫病が流行したということ。

 

豚は雑食性なので、ヒツジや牛などの草食動物より

肉が腐りやすい。

衛生管理がなっていなかった当時としては、

十分あり得る話である。

 

もちろんヒツジだって牛だって鶏だって

冷蔵しとかなきゃ腐るのだが、

たまたまムハンマドが豚肉由来の疫病に

出逢ってしまったのだろう。

歴史は僕たちが思っている以上に、

必然よりも偶然の力が大きい。

 

なんとなく納得してしまう説だが、それでも釈然としない。

仏教やキリスト教の地域だって同様のことはあったはず。

これだけ世界に広がった宗教の創始者だから、

ムハンマドの信念はもっと複雑で深いはずだ。

彼は直観で知っていたからではないかという気がする。

 

「豚は人間に酷似してる」

 

つまり豚を食べることは、人肉食に通じる。

そうイメージして恐怖し、ブタにフタをしたのである。

 

実際、豚の皮膚や臓器は、類似猿よりも人間に近く、

代替が可能だという。

皮膚や臓器の移植手術は

190年代から試行検討されており、

つい最近、ついに実際に行われた。

 

今年2月には

「世界初、ブタからヒトへの心臓移植の注目点は」

という医学記事も発表されている。

(以下抜粋)

2021年1月7日、米メリーランド大学の医療チームにより、

世界で初めてヒトへの遺伝子改変ブタの心臓を用いた

異種移植が実施された。同大学の公式サイトによると、

2月9日現在、レシピエントの57歳男性に移植されたブタの心臓は

問題なく機能しており、

24時間体制のケアを受けている様子が伝えられている。

 

https://www.m3.com/clinical/open/news/1018905

 

預言者ムハンマドは、イエス・キリストと違って

神の子として生まれてきたわけではない。

彼は商人として暮らしていた40歳のときに突然、

天使ガブリエルによる啓示を受け、

預言者として神からのメッセージを

人々へ伝えていくことを決意したという。

 

彼はその中で人間と豚の近親関係を感知し、

それを人々に「豚肉食禁止」と言う形で説いた。

それが人々の心の奥底にあった、

豚に対する近親相関的感情に響いたのではないだろうか?

 

上記のような移植の話は、

到底、ムスリムの人々は受け入れられないだろうが、

医学的・科学的に興味を抱く人は少なくないはずだ。

 

あなたは自分が、あるいは家族が、

命を救うためにこの臓器移植の提案をされたら、

どうしますか?

 

今回の仕事は、ハラールについて、イスラム教について、

豚についての神秘を感じた面白い仕事だった。

この件についてはまたおいおい。