週末の懐メロ106:悲しき天使/メリー・ホプキン

 

1968年リリース。

イギリスのシンガーソングライター、

メリー・ホプキンが歌ってグローバルヒット。

とても印象的なメロディーラインなので、

若い世代でも聴いたことがある人が多いだろう。

 

僕はフランスのシャンソンの何かの曲を

モチーフにしているかと思っていたが、

原曲はロシアの歌謡曲で、

それをアレンジしたのだという。

 

さらに驚きなのが、当時、ビートルズが作った

アップルレコードからの初のシングルであり、

ポール・マッカートニーが

プロデュースしたのだとか。

 

そんな意外な事実に衝撃を受けた

「悲しき天使」だが、

僕にとってこの曲は唐十郎の戯曲「少女仮面」の

テーマ曲である。

 

唐十郎は1960年代から70年代にかけて

世の中を席巻したアングラ演劇の

劇作家であり、大スターであり、

彼の率いる劇団状況劇場は、

恐るべきスター俳優が勢ぞろいする

超パワー劇団だった。

 

その唐十郎が1969年に書き下ろし、

1970年の第15回岸田戯曲賞

(演劇界の芥川賞と言われる)の受賞作が

「少女仮面」だった。

 

この戯曲には冒頭部分のト書きで、

「メリー・ホプキンの『悲しき天使』が流れる」と

堂々と書かれている。

 

物語はさすがアングラ芝居らしく、

いろいろな幻想的なシーンがコラージュされていて、

単純なつくりではないが、

最も主軸となるテーマは「老い」、

それも女の老いである。

 

「時はゆくゆく、乙女は婆に、

婆は乙女になるかしら?」

なんて歌も挿入されるが、

おそらく「悲しき天使」が、

この物語の重要なモチーフになったのだろう。

 

この頃の邦題は、歌にしても映画にしても、

女が主役・歌い手だったりすると、

やたら「悲しき○○」「天使の○○」「○○の天使」

というのが多いが、原題はまったくこれと関係ない。

 

原題「Those were the days」は、

「あの頃はよかった・あの頃がなつかしい」

という意味で、歌詞の内容は、

まさしくな懐メロ大好きな中高年が、

青春時代の思い出に耽っている、という内容。

歌うメリー・ホプキンは当時、

まだ少女と言ってもいい18歳の女の子だった。

 

天才的物語作家で、次々と戯曲を書きまくり、

芝居を打ちまくっていた唐十郎の頭の中には、

この歌詞とメロディを聴いただけで、

「少女仮面」の構想が、

ダダダダと出来上がったのだと思う。

(確か何かの本で「三日で書き上げた」

と言っていたような記憶がある)

 

ちなみに「少女仮面」は、

僕が演劇学校に入った年、

学内の1年上の先輩方が上演して

「すげー」と衝撃を受けた思い出がある。

こんな芝居をやるなんて、

先輩方がみんな天才俳優に見えた。

今でもその時の、

ひとりひとりのキャラクターを鮮烈に憶えている。

 

また、この作品は「老い」という普遍的なテーマ、

そして役者の人数も適度で、

大掛かりなセットもいらない、

時間的にも割と短く、

上演しやすいといった要素から、

唐十郎の芝居の中で最も人気があるようで、

最近でもどこかしらの劇場でやっているようだ。

 

そして「悲しき天使」も時を超えて流れている。

18歳だったメリー・ホプキンも、

もう70歳を過ぎている。

婆は乙女になるかしら?

 

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