週末の懐メロ110:命あるものは樹から落ちた/坪田直子

 

1976年リリース。

懐かしいけれど、ひどく新鮮な気持ちにさせられる

坪田直子の透明感のある声。

浮遊感のあるファンタジックな演奏に乗せて、

ほんの数行の詩を繰り返すだけの短い歌だが、

いかようにでも解釈できる、

とても想像力を刺激される歌だ。

 

高校生時代に見た「気まぐれ天使」という

テレビドラマで彼女が好きになり、

レコード屋でこの「ピーターソンの鳥」という

アルバムを見つけて買った。

いまや見つけるのが

難しいマイナーなレコード(CD)だが、

当時、魂を傾けて聴き込んだせいもあって、

いま聴いても1曲1曲が驚くほど個性を放っていて、

めちゃくちゃ充実した内容に思える。

 

全10曲中、6曲がいわゆるフォークソングと

ニューミュージックの間のようなメランコリックな歌、

2曲がポエムリーディング、

そしてこの曲と最後の「ほし」が、

このような短い詩のリフレインになっている。

当時としてもかなりユニークな構成だ。

 

「ピーターソンの鳥」は、同名映画のサントラである。

東京キッドブラザーズ制作の映画で、

彼女はその物語のヒロインだった。

脚本・監督の東由多加は、

かの寺山修司が主宰していた演劇実験室「天井桟敷」の

創設メンバーの一人。

寺山が発起人となって開いた力石徹の葬儀

(漫画「あしたのジョー」の登場人物)は今や伝説だが、

その構成・演出は彼が手掛けた。

 

東京キッドブラザーズは、

東由多加が天井桟敷脱退後に作ったミュージカル劇団で、

NYCのオフブロードウェイにも進出した。

映画はミュージカルではないが、

かなり音楽に精力を傾けていて、

そのこだわりがアルバム「ピーターソンの鳥」の

クオリティの高さに繋がっている。

当時としても、そして、いま聴いても

斬新でユニークなサウンドではないかと思う。

 

ちなみに映画の話をすると、

主役は秋田明大という全共闘のリーダーだった男。

どうも彼が天井桟敷や東京キッドブラザーズの演劇に

興味を持って東と仲良くなり、

この映画作りに発展したらしい。

 

ただ、映画の内容はそうした思想や政治とは関係なく、

珍しい鳥を探し続ける男と、彼と出会った女との旅を

抽象的に描いた、半分アメリカンニューシネマ風の

あまりストーリーのはっきりしない映画だった。

 

内容として思い出せるのは、

雪原やプラネタリウム、バイクで走るシーン。

そしてやっぱり坪田直子の顔と歌声ばかりである。

 

けっこう暗い、破滅的な話なのだが、

妖精のような彼女の存在が、

浄化作用になっていた印象が残っている。

 

僕は確か1978年か9年に池袋の映画館で

リバイバル上映されていたのを見たのだが、

知る限り、その後、

どこかで上映されたという話を聞いたことがない。

もう幻の映画になってしまったのだろう。

僕にとっては坪田直子の歌が聴ければ

それでいいのだけれど。