高齢者の心の問題を手当てする「親の雑誌」

 

月刊終活で「創業!エンディング・プロデュース」

という連載記事を書いている。

高齢社会の進展に従って、

これまでなかった、高齢者をめぐるニーズが発生しており、

大小いろいろな企業が

そこにフォーカスした事業を起こしている。

この記事はそれらの事業内容を紹介するものだ。

 

ニーズが発生しているとはいえ、

それらは社会の目が届かないものも多い。

その最たるものとして、高齢者の心の問題がある。

 

ごく端的に言うと、

「もうこの社会で自分の出番はないかも・・」

と思っている高齢者は少なくない。

 

誰からも、どこからも求められていない。

だんだん忘れられてゆく存在になりつつある。

その孤独感・疎外感は想像を絶するものがある。

 

お金があって、裕福な暮らしをしていて、

悠々自適にやっているように見えても、

じつは心に空いた穴は大きい。

いや、むしろ裕福な人ほどそれが大きいのではないか。

 

近年、大きな社会問題となっている

特殊詐欺事件(最近は強盗)の頻発も、

僕はこうした高齢者の心の問題が遠因と

なっているのではないかと思う。

「話しかけてくれるのならば相手が犯罪者だとしても‥」

そうした心情は理解する必要がある。

 

きょう取材した「こころみ」という会社は、

「話を聞く」をコンセプトとして、各種事業を行っている。

コミュニケーション・ロボット、スマートスピーカー、

チャットボット等の会話シナリオを作ったり、

「ディープリスニング」という、

傾聴を一段深化させたメソッドを開発し、

企業研修に提供したりしている。

 

その基幹事業と言えるのが「親の雑誌」という、

高齢者の自分史の制作だ。

自分史は通常、高齢者本人が自分の意志で本を書き

(あるいはライターが代筆し)、出版するのだが、

こちらは子供がライター(インタビュアー)に依頼し、

親の人生ストーリーを聞き出して

本(雑誌)にするというもの。

つまり、親の心の奥にしまわれている出来事や思いを

開放することに焦点を当てた仕事だ。

すごくユニークであり、社会的意義も大きい。

 

高齢者はみんな潜在的に語りたがっている、

誰かに話を聞いてもらいたがっているが、

家族もケアラーも無事であること・健康であることには

注意を払うものの、そうした潜在的な飢餓感にまでは、

なかなか気がつかないし、手当てもできない。

「親の雑誌」はその問題点に光を当て、

高齢者を救うと同時に、家族や周囲の人たちとの

コミュニケーションを促す役割を果たすのだと思う。

それは高齢者一人一人の心の手当になるとともに、

今後の日本社会全体の手当てにも繋がるのでないか。

注目していきたい仕事だ。