
認知症の義母は、夫(義父)の遺影を見ると、
いつも「この人だれ?」ときいてきます。
何十年も夫婦としていっしょに暮らしてきたのに、
まったく覚えていないのです。
ある仕事で人生相談の相談文を頼まれたので、
このことをネタにして女性(娘)の悩みを書いてみました。
「あんなに仲の良い夫婦だったのに、
父のことをすっからかんに忘れてしまった母が
憎いやら、悲しいやら、やるせないやら・・・」
と、えんえん自分の心情を吐露し、
「結局、愛し合うってどういうことなのでしょう?
どうして人と人とは愛し合うのでしょうか?」
と、相談者に問いかける文章です。
20世紀・21世紀生きる僕たちは、
生まれてから、テレビ、映画、マンガ、小説、ゲームなど、
毎日いろいろなコンテンツに触れているので、
「永遠の愛」とか「不滅の絆」なんて
ドラマチックなものを信じてしまいがちです。
しかし、実はそれは作られたもので、
人間の真実の姿とは
かけ離れたものではないかと思うのです。
すっかり子供みたいになってしまった
義母の相手をしていると、つくづくそう感じます。
結局、寒くもなく暑くもない、
適度に衛生的で快適な環境に身を置いて、
毎日うまいものを食べて、
面倒を見てくれる誰かがそばにいれば、万事OK。
幸福に、満ち足りて眠りに落ちる。
それが人間の本質なのだと、
義母には教えてもらっているようです。
けれどもみんながそんな本質的な部分だけで生きていたら、
人間の社会生活はままなりません。
というか、そもそも人間社会というもの
が成り立たなくなります。
僕たちには、愛とか夢とか自由とか理想とか、
そういう美しい幻想が必要です。
それは個人的なものでなく、
むしろ社会的な要求です。
生きるとは、ひとりひとりが
死ぬまでそうした幻想を抱き続けること。
僕も願わくば、最期までそうありたいので、
そのために毎日、
こうしていろいろな
文章をこねくりまわしているような気がします。

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昨夜よりもっといい夢を見る方法
「生きる」をテーマにしたおりべまことエッセイ第6集。人生の半分は夜。だったらもっといい夢みなきゃな。そう思ったら読んでみてほしい。
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ブログ「DAIHON屋のネタ帳」2022年9月から23年末のなかから抜粋。
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