義母の「むき出しの欲」から人生の幸福度について考える

 

先月、義母をショートステイに預けたら、

ちょっとしたトラブルがあった。

他の利用者が持っていたぬいぐるみを

「これは自分のものだ」と言い張り、

ガメてしまったのである。

 

どうやらその持ち主さんは安心のために、

いつもそのぬいぐるみを持ち歩いているらしいが、

義母に取られて、かなりパニクったようだ。

怒り心頭だったのか、泣き喚いたのか、わからないが、

とにかく大げんか。

スタッフの人は双方をなだめるのに苦労したらしい。

 

とはいえ、そこは認知症のありがたいところで

執着はいつまでも続かず、5分か10分、

気をそらすと忘れてしまう。

そして、それ以降は義母の目に触れさせない

という措置を取って、一件落着したらしい。

 

まるで保育園や幼稚園の幼児みたいで、

やれやれという感じだが、ここのところ、

こうしたトラブルが増えてきた。

家のなかでも、自分の食べ残したお菓子や食器、

家族共用のタオルや、使用済みの包み紙などに対して

「わたしのものだ」と異様な執着心を見せ、

それを取り上げようとしたカミさんとケンカになることが多い。

 

こうした「物に対するむき出しの欲」は

認知症患者特有のものというわけでなく、

今どきの年寄りの「あるある現象」だと思う。

人間らしいと言えば人間らしいし、

子供の場合は可愛さにもつながるが、

おとなの場合は、そうではない。

 

齢を取ったら聖人のように悟るべきだとは言わないが、

欲に取りつかれた老齢の人間の姿は、

やっぱり醜いなと思うし、哀れさを感じてしまう。

 

3年前に亡くなった実母(義母より6歳上)には、

こうした傾向はほとんどみられなかった。

いっしょに暮らしていなかったので確かなことは言えないが、

帰省で何泊かした時見ていても、

娘である妹とケンカすることはなかったし、

妹からそれで困ったという話も聞かなかった。

そして施設に入ってからは、

神様の領域に入ったような、穏やかな顔をしていた。

 

二人の違いは、人生全体の幸福度の違いなのかなと思う。

やはり幸福度が低く、

不満やストレスが多い生き方をしていると、

あるところまでは我慢が効いて体裁を保っていても、

高齢化して社会人としての枷が外れてしまうと、

抑えつけていた欲がむき出しになってしまう。

 

さらに言うと、母世代(戦前生まれ)の女性は、

やはり伴侶との結婚生活の影響が大きいのだと思う。

僕の両親は、適当に仲良く暮らしていて、

父は一切家事をしない人だったが、

あまり母にやかましいことは言わなかった。

 

7回忌なので悪いことは言いたくないが、

義父は亭主関白で、かなり義母の「しつけ」にうるさく、

彼女の希望を抑えつけ、

単独で外出することをめったに許さず、

家に縛りつけていたらしい。

 

いっしょにあちこち旅行に出かけるなど、

表面的には仲良し夫婦と見られていたようだが、

その見た目は、義母が我慢することで

成り立っていたのかもしれない。

もちろん、幸福度はそれだけで決まるものではないだろうが、

いっしょに暮らす人間との相性はかなりウェイトが高い。

 

今、女性の生き方は昔と比べて多様化して、

もう「すべては男次第、亭主次第」というわけではない。

結婚式のころはテンションが上がっているので、

互いに「幸福にします・なります」と、

ペロッと言えちゃうが、

数年たって、こりゃだめだなと思ったら、

迷わずさっさと離婚したほうが人生を汚さずに済む。

 

今の日本で「我慢が美徳」と思って生きていると、

欲望むき出しの醜い高齢者になるリスクが高まるのだ。

義母には申し訳ないが、つくづくそう思う。

 

彼女の名誉のために言っておくと、

欲にかられるのは、あくまで部分的であり、

四六時中そうなっているわけではない。

むしろ普段とのギャップが大きいので、

悲しい気分になり、考えさせられるのだ。

 

いずれにしても、愛されるジジババにならなくてもいいが、

ある程度きれいで、

子供たちから多少はリスペクトされる人間にりたい。

 

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