
この物語の一貫したテーマは「親孝行」。
お盆休みの午後、吉祥寺という土地柄もあってか、
映画館の観客の大半は家族連れだ。
さすがに幼児はいないが、小学校低学年くらいの子が多かった。
こんなチビどもが2時間半以上もある映画をずっと見られるのか?途中で騒ぎだしたら嫌だな、と思った。
が、余計な心配だった。
これだけの大ヒットは、
過去の実績や宣伝のうまさだけでは達成できない。
文句なしのクオリティでまったく飽きさせない。
このアニメ(マンガ)の特徴は、
少年漫画と少女漫画のベストミックス。
少年マンガ得意のバトルアクションをベースに、
少女マンガ得意の内面ドラマがどんどん入ってくる。
スピード感あふれるアクションの合間に、
それぞれの登場人物の脳裏をよぎる数秒間の回想が、
10分、20分の主観的な物語として描かれるのだ。
その物語が次から次へと語られる。
双方のリズムが素晴らしく、長尺を感じさせない。
もう一つ、この映画が受け入れられるのは、
冒頭に挙げた「親孝行」というテーマの明快性。
何が正義がわからないこの時代に、
親・師匠を大事にすることの尊さを訴え、
親孝行、家族愛、兄弟愛といった圧倒的な正義を提示する。
観客にとってともわかりやすく、安心して観ていられる。
鬼殺隊は、親方様である産屋敷を父とする大家族であり、
曲者ぞろいの9人の柱は家族を支える兄弟。
主人公の炭治郎たちはその年若い弟である。
そして、彼らが闘う鬼の中でも、人間だった時代、
父親を救おうとしたり、養父であり、義父になるはずだった師匠を敬った猗窩座には同情・共感が寄せられる。
それと反対に、その美貌や天才性ゆえ、
両親を馬鹿にしていた童磨は嫌われる。
ただ、僕は彼の異常な心の闇がどのように形成されたのか、
とても興味がある。
これだけの狂気を表現できる声優さんの演技力はすごい。
近年、世間を震撼させる事件・犯罪は、
猗窩座のような、社会や他者に対する怨恨と、
童磨のような、お道化たサイコパス性が
混合したもののように思える。
「親孝行」をテーマに大成功を収めた「鬼滅の刃」。
しかし、圧倒的な正義は、巨悪に転じることもある。
宗教が、政治が、悪徳ビジネスが、
親孝行や家族愛を語りながら、巧妙に心を支配し、
金をだまし取ったり、個人の自由を侵したり、
人生を破壊するなど、人を喰う鬼に化けることがあり得る。
かつてこの国は、そこを利用して、
日本人は天皇を中心とした家族であるという夢を見せ、
富国強兵を進めて、アジア随一の軍国国家を創り上げた。
終戦の日の翌日に見たせいもあって、
どうしてもそのことが気になった。
娯楽なのだから、気にせず楽しめばいいのだが、
時として、娯楽は支配者にとって
都合の良い洗脳教育にも使われることは覚えておきたい。
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