
谷川俊太郎の詩を読んでいたら、
40年余り前に暮らしていた江古田の
アパートの部屋の風景がよみがえった。
「第2みのり荘」という名のそのアパートで、
1階の4畳半の角部屋で一人暮らしをしていた。
古い建物だったので、窓はサッシでなくて木枠で、
金色のネジみたいなカギをくるくると回して穴につっこみ、
ネジ締め方式で施錠していた。
その南向きの窓から暖かい秋の日差しと
金木犀の香りが入り込んできた。
それで記憶が刺激されたのだ。
ちょうど今頃の季節に谷川俊太郎の本を読んでいたのだろう。
おそらく「20億光年の孤独」だったと思う。
新潮文庫だったか、黄色っぽい表紙に
若かりし頃の谷川さんの顔写真が載っていたことを憶えている。
そんなに熱心な読者ではないし、
センセーショナルな体験をしたというわけでもない。
それでも人生の要所要所に谷川俊太郎の詩に出会い、
その言葉の数々が心にしみ込んだ。
文章の流れがちょっと異次元的なのだが、
僕にとってはとても自然に感じられるのだ。
息子が生まれて初めて絵本も
谷川俊太郎が書いた「もこもこもこ」だった。
膝に乗せて読んであげるとキャッキャと
声を上げて大喜びするので、何度読んだか数えきれない。
それから18年後、その息子の高校の卒業式で、
谷川俊太郎が卒業生に贈った長編詩を、
演劇部の生徒が朗誦したのを聞いて、
なんてすごい詩人だろうと、めっちゃ感動した。
子どもたちへのはなむけに贈った詩は
まるでロックの歌詞のようだった。
谷川さん自身がこの高校(都立豊多摩高校)のOBなのである。
この本「行先は未定です」は、
谷川さんが活躍し出した1950年代から、
死の間際に書かれたと思われる2024年の作品までを採録し、
晩年のインタビューも交えて構成したアンソロジーで、
今年の7月に刊行された。
いわば「ベスト・オブ・谷川俊太郎」
もしくは「谷川俊太郎入門書」と言えるのかもしれない。
タイトルもとても谷川さんらしくて素敵だ。
きらめく星々のような詩句は、いつまでも初々しく、
老いや死について語る言葉にも、
青春のみずみずしさにあふれている。
谷川さんの人生は完結したが、
その詩の世界は、僕たちを取り巻くこの宇宙のように
ますます広がり続けている。
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