れいわ伊勢ものがたり⑤「『砂の器』の旅館で松坂牛とカキフライ」

 

JR参宮線で伊勢市から西(鳥羽)へ二駅。

二見浦は伊勢神宮参拝の前に身を清める

「禊(みそぎ)」の地である。

二見浦と言ってもピンと来ない人も、夕景の美しい、

あの「夫婦岩」のある海岸と言えばわかりやすいだろうか。

 

この禊の地は、昭和の名作映画

「砂の器」(1974年公開・松竹)のロケ地である。

旅の初日、昼過ぎに二見浦に着いて、

腹ペコだったので迷わず入った「扇屋」というカフェがそれだ。

駅から徒歩1,2分。つまり、ほぼ駅前。

当時はカフェでなく旅館だったが、外観はほぼそのまま。

内装ももとの構造・雰囲気を残してリノベーションしてあり、

おしゃれな昭和レトロカフェになっている。

 

この物語は、都内大田区・蒲田駅の操車場構内で、

殺人事件の遺体が見つかったところから始まる。

被害者は事件に遭う前にお伊勢参りに行ったのだが、

その足取りを追って、刑事(丹波哲郎)が

宿泊した旅館を捜索しに来る。

そこで登場するのが扇屋旅館

(松本清張の原作では「二見旅館」)なのだ。

 

とはいえ、カフェではそんなこと宣伝などしていないので、

まったく知らなかった。

僕とカミさんはおなかを満たすために、

ランチメニューにあった松坂牛のハンバーグと

鳥羽浦産のカキフライをがつがつ食い、

ついでに気になった「ウツボの唐揚げ」を食べてみた。

ウツボはいわゆる珍味なので、

ごはんのおかずにはならなかったが、

ビールなどのつまみにはよく合うと思う。

 

それで食事を終えて出てきたところ、

落ち着いてよくよく店の佇まいを眺めると、

雰囲気のある古めかしい旅館であることがわかった。

それで確認してみようと、わざわざ戻って尋ねてみたら、

店の人が「じつはここは・・・」と話してくれたというわけ。

 

「砂の器」は社会派推理小説としての原作の持ち味を活かしつつ、殺人事件の裏にある社会背景・悲劇を背負った人間の姿を

ドラマチックに描いた、今に語り継がれる昭和の名作だ。

 

この映画には思い出があって、

中学生の時の「映画観賞会」で初めて見た。

劇中、犯人の音楽家とその愛人の、ごく控えめな濡れ場があって、ちらっとだが愛人役の島田陽子さんのハダカが出てくる。

そこで男子がこぞって大騒ぎしたという、

じつにしょーもない思い出だ。

思春期ホルモン出まくりの中学生だからしゃーないです。

 

「砂の器」では他に二見浦の風景は出てこないが、

かつて伊勢参りの観光客が観光バスに乗って

大挙して押し寄せていた名残があり、

あの頃の昭和のにおいがプンプン漂う。

海岸沿いに立ち並ぶ松の木の歪んだ枝ぶり、

そして大半のホテル・旅館が閉鎖し、廃虚化しているところも

何やらいい味付けになっており、

白波の立つ海の景色と奇妙にマッチしているように思えた。