腹が減っていては何事も始まらない。
どんなに拝まれようと、神様だって腹ペコではやる気が出ない。
もともと伊勢神宮は内宮(ないくう)だけだったそうだが、
祀られている皇室の祖先神・天照大御神が
「一人でお食事するのは嫌じゃ」と駄々をこねたので、
丹波国(京都府北部)から食の神である豊受大神が迎えられた。
その豊受大神を祀るために、内宮から500年遅れて
外宮(げくう)が創建された。
内宮と外宮、二つ合わせて伊勢神宮。
テレビなどでパワースポットとして紹介されるのは
ほとんど内宮らしいが、外宮のほうが駅から近くて行きやすい。
それに「食」の神様を祀っているせいか、
外宮は内宮に比べると、
境内の雰囲気がちょっと俗世界に近い空気が漂う。
人も神もめしを食わなきゃ活動できないのだ。
ここでは今もまだ、毎朝夕、神々に食事を捧げる
「日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)」
が続けられている。
さて、この外宮の参道には一羽のニワトリがいる。
真っ白で見ようによっては神々しく、
つぶらな瞳をしていてかわいい。
それにこのコッコちゃん、
毎日、大勢の参拝客と接しているせいか、
ぜんぜん物怖じせず、やたらと人懐っこいのだ。
かと思えば、なかなかワイルドな飛翔力もあり、
地面から高さ3メートルぐらいの木の枝に飛び乗ったりもする。
木の上をねぐらにしているのかもしれない。
万一の時の捧げものなのか、
はたまた豊受大神ゆかりの守鶏なのか?
僕たちが帰る時、後をついてきて
人間の世界との境界線である鳥居のところまで
出てきたのだが、やはり結界の外へ出ていこうとはしない。
来ないのか?
駕籠の鳥のままでいいのか?
自由になりたくはないのか?
僕は鳥居の下に立ち、心のなかでそう呼びかけたが、
コッコちゃんはコココと小さく呟き、
くるりと踵を返して、神の領域に戻って行った。



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