萩原朔美の「ダブル・スタンダードーー自主規制」

 

大森にある山王ヒルズホール(日本芸術専門学校)で、

リーディングドラマを観た。

「ダブルスタンダード」という2部構成の舞台。

その第2部「自主規制」という作品は、

テレビの新米プロデューサーとドラマの脚本家とのやりとりを

コミカルに描いた秀作で、三谷幸喜の「ラジオの時間」のように、

スポンサーに忖度しているうちに、

どんどん当初のドラマ設定が崩れ、

脚本家が果てしない書き直しをしていく、という話で、

めっちゃ面白かった。

なんといっても、プロデューサーの要請に困窮しながらも

対応していく脚本家――萩原朔美の演技が、味わい深くて最高だ。

 

萩原朔美といえば、天井桟敷の創立メンバーだった人だ。

劇作家・寺山修司が率いた演劇実験室・天井桟敷は、

1960年代、唐十郎の状況劇場ともに

日本のアングラ演劇の頂点にいた。

様々な伝説を作り、その影響は現代にまで及んでいる。

 

萩原朔美は天井桟敷の代表作の一つである

「毛皮のマリー」で「美少年」の役として出演。

丸山明宏(今の美輪明宏)演じるマリーに次ぐ準主役である。

その他、初期の天井桟敷で演出などもやっていた。

 

僕は後追い世代なので、それらの舞台は見たことがない。

ビデオもまだなかった時代なので、

その作品世界に触れられるのは、

本(戯曲)と写真集くらいだったが、

萩原朔美の名は脳裡に刻まれていた。

文学に通じている人は、名前からピンと来るかもしれないが、

彼は明治~大正~昭和初期に活躍した

詩人・萩原朔太郎の孫である。

 

とても多彩な人で、天井桟敷を辞めた後は、

映像作家、編集者、エッセイストなど、

多岐にわたって活躍していた。

調べてみたら、多摩美術大学の名誉教授や

前橋文学館の館長までやっている。

 

演劇からは離れていたらしいが、

70歳を超えてまた芝居がやりたくなり、

近年は朗読劇に取り組んでいるそうだ。

 

僕にとっては夢の世界の人だった、

アングラ演劇の雄・天井桟敷のオリジナルメンバー、

なんてイメージなど、もうどこにもなく、

そのへんにいるおじさん(じいさん)と変わりないが、

その普通ささえも不思議と素晴らしい味になっている。

 

終演後に15分ほどのトークショーがあったが、

前立腺ガンを患って女性ホルモンを注射したら

ハゲが直った、なんて話を、

悲壮感のカケラもなく、ジョークのようにしていて、

そのひょうひょうさぶりに感動さえ覚えた。

本当に才能ある人とは、こういう人なのだ。

 

もうすぐ80歳に手が届く、とお話しされていたが、

自分もこんなふうに年を取りたいものだと、つくづく思った。

明日も2回公演があるが、

萩原さんに会えるだけでも満足のいく舞台である。