子供の頃、いっしょに暮らしていた叔母が
よく爪切りや耳かきをしてくれた。
耳かきをしてもらう時の叔母の膝のぬくもりは
今でもよく覚えている。
ただ、母親は叔母が僕を猫かわいがりするのを
こころよく思っていなかったので、
そうした面倒を見てもらっていることは
口に出して言えなかった(もちろん、知っていたと思うが)。
というわけで、
子供の頃に女の嫉妬の恐ろしさを肌身で感じているので、
そのへん用心して生きて来た。
さしてモテなかったので、用心する必要なんてないのだが。
それはさておき、叔母は爪切りの時、必ず僕の手を触って
「きれいな手」「やさしい手」
「女の子みたいな手をしている」「苦労を知らない手だね」
ということを言っていた。
たんに正直な感想を言っていただけだと思うが、
それが妙に引っかかった。
一人前の男として認められていない、
ちょっとバカにされていると感じたのだ。
(子供だったから当たり前なのだが)
それで早く父親のような、
男らしいゴツゴツした手になりたいと思っていた。
その願望は大人になっても叶わなかった。
以前、PTAでいっしょに仕事していた、
ちょっと年下のお母さんがある時、
自分と僕の手を見比べて「きれいね。女みたい」と言った。
そして「あたしはババアみたいな手になってきた」と嘆いた。
彼女の手は指はすらりと長いのだが、けっこう節くれだち、
しかも爪が長くて派手なマニキュアをしていたので、
全体的な印象が魔法使いの婆さんっぽかったのだ。
最近は義母がしばしば僕の手を取ってスリスリさすりながら
「あなたの手はきれいよ」などという。
そして、やっぱり自分のしわの寄った手と見比べて、
「あ~あ、あたしの手はなんでこんな汚いの」とため息をつく。
こういう部分はまだ“女”が残っているようだ。
カミさんには特に手について何か言われたことがなかったので、
「どう思う?」と見せたら、やっぱり「女っぽい」と言われた。
そもそも手全体が小さく、指も短い。
これは子供時代からあまり成長していない証なのかもしれない。
ちなみにカミさんの手をまじまじ見ると薬指が異常に長い。
ほぼ中指に並ぶほどの長さである。
なんでも薬指が長くなるのは胎児の時代に受けた
男性ホルモンが影響しているとかで、
女でこれほど薬指が異常に長い人は珍しいらしい。
「薬指」という名前自体が薬師如来から来ていて、
この指にはけっこうなスピリチュアルパワーがあるという。
特に心臓と血脈が繋がっている左手の薬指には
神秘的な力が宿っているとか。
そんなことを気にし出したら、
ネットでやたらと薬指の話が出ているのに気づいた。
古今東西のいろいろな言い伝えがあるので、
ちょっと勉強してみようと思う。
話を戻すと、カミさんは鍼灸治療をやっているので、
意識的に大事にしていることもあり、手はきれいだ。
だから、ことさら僕の手と比べて感想を抱くこともないようだ。
ふと、あの叔母の手はどうだったのだろう?
僕の手をうらやましがるほど、節くれだっていたのだろうか?
耳かきの膝のぬくもりは思い出せるが、
手のことはあまり憶えていない。
白くてちょっと血管が浮き出ていたような気がする。
あなたもたまには自分の手や周囲の人の手をじっくり見てみると、
思ってもみなかった面白い発見があるかもしれない。



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