僕も年金をいただく齢になってしまった。 のは昨年からだが、
①フルに払ってないので大してもらえない
②金持ちではないが、とりあえず生活に困っていない
③もらっちゃうと年寄り気分になって、
頑張る気が萎えるのではないかと怖い
という3つの理由から繰り下げ受給にし、
今はまだいただいていない。
ところが昔、アルバイトしていた会社で
厚生年金を払っていて、番号が二つあったことが発覚。
もう40年近く前の話なのですっかり忘れていたのだが、
探してみたらちゃんと手帳が見つかった。
そこで統合してもらおうと年金事務所に足を運んだ。
平日の午後1時。
にも関わらず、けっこう人がいる。
アジア系の外国人もおり、職員が英語対応している。
予約をしてあったので待ち時間は10分もない。
ロビーのテレビに出ている「ばけばけ」の再放送
(音声は消音で字幕のみ)を見ているうち、
そこはかとなく違和感を感じ出した。
なんといえばいいのか、職員の人たちの間に
不自然な緊張感が漂っているのである。
別に何事も起こっておらず、
穏やかに時間が流れているにも関わらず、
何かベーシックな部分で、ピンと張りつめたものがある・・・
そう感じているうちに順番が来て、5番窓口へ。
アクリル板越しに対応してくれたのは30代前半と思しき女性だ。
「本日、対応させていただく○○と申します」
と、自分の名札を見せる。
よくある名前、まず読み間違えることはない名前なので、
わざわざ字までしっかり確認する必要はないのだが、
こちらからよく見えるように胸につけた名札を持ち上げて見せる。
ずいぶんと丁寧な人だなと思うと同時に、
やっぱりこの人もそこはかとない緊張感を醸し出している。
誤解のないように言っておくと、
けっして僕が不機嫌な顔をしていたわけではない。
そもそも人を怖がらせるようなルックスではないし、
口調もいたって穏やかだったはずである。
しかし彼女は気を許さない。
本人確認でマイナカードを見せる。
そこに貼った写真は短髪でスーツを着ていて、
メガネも変わっている。今はヒッピーみたいな風体だ。
「ハハ、別人みたいに見えるでしょ。でも本人だから信じてね」
と、ちょっと冗談めかして言ったが、
にこりともせず、「大丈夫です。ご心配いりません」と返す。
そのあと、いろいろ記入する書類を出そうとしたのだが、
僕が持参した手帳を出して、なぜ2冊あったかの理由、
厚生年金に入っていたかの経緯を話すと、
「でしたらそれをコピーさせていただくだけで大丈夫です」
と言ってさっと書類をひっこめた。
一応、相談時間は30分の予定だったが、
ものの5分とかからず終わってしまった。
書類をひっこめたときの彼女の顔が忘れられない。
笑顔にはならなかったが、
心底ほっとしたという空気が伝わってきた。
終わった後、トイレに行きたくなって、
ロビーでちょっとウロウロしてたら、
総合受付の女性と目が合った。
「あの、何か・・・」と、これまた例の緊張感を持って
おそるおそる尋ねてくる。
「お手洗いはどちらでしょう?」ときくと、
「この出たところです」と教えてくれた。
このときも安堵と「なんだ、ああよかった~」
という空気がビビビと伝わってきた。
わかった。
年金事務所の人たちはいろいろ大変なのだ。
そう直感して調べた。
するとあの違和感・緊張感の正体が明らかになった。
クレーム対応は日常業務の一部。
実際はクレームなんて生易しいものじゃなく、
高齢者の暴言は凄まじいものがあるらしい。
「おれが生活できないのはお前らのせいだ!」
などと言われることもあるという。
もちろん対策はしている。
マニュアルに基づくクレーム対応研修、複数職員での対応、
警備体制の整備、悪質な場合は警察相談・・・
やはりそこはかとなく、伝わる。
制度への不満や生活不安が背景にあって、
窓口が最前線になっているという構造的な問題が大きいのだ。
だから「失礼がないように」「刺激しないように」
「トラブルを起こさないように」
といった慎重さが職員さんたちの基本モードになっている。
でも、その最低限の丁寧さは、
心から利用者の話を聞こうという気持ちからではなく、
自己防御の目的から出ているものなので、
何か不自然な違和感・緊張感を感じてしまったのだろう。
僕に対応してくれた女性は
「面倒な人じゃなくて、ああ、よかった」と思ったのかも。
年金の窓口って、30分以上かかる、制度説明が何段階にもなる、
相談者が感情的になる、
「前に言われたことと違う!」と言われる・・
そんなケースが日常的にあるので、
短時間・誤解なし・怒りなし・書類なし は
“当たりくじ”ということらしい。
そうか、当たりか。
それで彼女が、しばし安心できる時間を過ごせたのなら、
よかったなと僕も満足である。
年金問題なるものがあって、
国民がそろって老後のことが心配で、
あいつらズルして得してて、おれは、あたしは損してて、
生活できない、人生もうダメ、カネよこせと思ってる人たちが
わんさかいる国なので、
最前線に立つ職員さんたちの苦労は尽きることがない。
でも、クレームを聞いてあげることは
あなたたちの本当の仕事じゃない。
ジジイ・ババアの暴言や、
上層部からの軋轢に負けることなく、
本当に自分らしい、良い人生を送ってほしい。

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