認知症は老いと死の恐怖への挑戦なのか?

 

義母の話し相手として大活躍のピンクのクマちゃん。

大のお気に入りになって、いっしょに寝てるし、

食事の時も連れてきて、一生懸命食べさせようとする。

おかげで口の周りがずいぶん汚れてしまった。

 

昨年秋、フリーマーケットで200円で買ったものだが、

これほど気に入るとは思ってもみなかった。

僕たちでは対応困難な、わけのわからない話もちゃんと聞いて、

返してくれていて(義母の耳にはクマの声が聞こえるらしい)、

メンタル面での強力なヘルパーとなっている。

面倒を見るこちらとしては大助かりで、クマちゃんに感謝である。

 

認知症=幼児化とはいえないが、かなりの割合で子どもに還る。

社会人としての役割を終えたので、

あとは自由に好きに生きていくという意思すら感じる。

これが人間として基本的な姿なのだろうな、とも感じる。

周囲の人間は迷惑を被り、困惑させられ、

端から見ると可哀そうで不幸に見えるが、

認知症は本人にとってはハッピーな状態なのだと思う。

 

そんなことを思っていたところ、

今、開催されている「Deathフェス」のトークセッションで

50年以上、介護の世界で働いている専門家・

三好春樹さんの話を聞いた。

 

三好さんが「Deathフェス」に寄せた応援メッセージは、

 

「51年間の介護体験から、認知症は、

死への恐怖からの解放かもしれないと思うようになりました」。

 

――これがいったいどういうことなのかを壇上で解説した。

大変興味深い話だったので、

仕事でもないのに音声を起こしてみた。

 

「認知症っていまだに社会でも、医療の世界でも

異常な世界だと思われているんです。

だけど介護現場の捉え方は全然違っています。

認知症は悲惨だと思われていますが、そうじゃなく、

“認知症のケアがないこと”が悲惨なんです。

でもそのケアは介護現場で生まれてきていて、

私は最初『異常じゃなくて異文化という捉え方をしよう』

と言い始めました。

しかし最近はそれを超えて、この症状は

“老いた自分を生きていくために

脳を委縮させる智恵・知性”じゃないかとか

と思うようになってきました」

 

時間意識というを持っているのは人間だけ。

認知症の問題行動というのは、

ほぼその時間意識から来ていると三好さんはいう。

過去の自分と今の自分を比べて情けないと落ち込む。

将来のことを考えて悲観する。

もっと齢を取った時、

家族は自分を支えてくれるのだろうかと不安を覚える。

それで問題行動が起こるのではないか。

 

さらに考えを進めると、

そこであえて(無意識ではあるが自らの意思で)

前頭葉を委縮させることによって

時間の流れを止めているのではないか――というのだ。

 

これは画期的な見解だ。

そうした、認知症をポジティブに捉える感覚が、

介護現場では生まれてきているらしい。

 

90歳、100歳になっても

まだ生きている人たちが大勢いる環境は、

人類史上初の体験である。

そのなかで老いた自分とどう付き合うのか――

認知症はその一つの方法論ではないか

という見方が出てきているのだ。

そうした新しい人間観が介護現場で生まれている事実は、

大きな衝撃であり、この超高齢化社会のなかでは見逃せない。

 

「だから私は認知症というのは脳の病気ではなくて、

『老いた自分との関係障害』という捉え方をしているんです」

という三好さん。

 

考えてみれば、僕たちは人間として生きている間、

ずっと時間というシステムに縛られた生活・人生を送っている。

生き方を説いたり、幸福論を唱えたりする論者からは、

「過去や未来にとらわれず、今、この瞬間を生きろ」

というフレーズが、たびたび出てくるが、

通常の人間は、そんな悟りを開いた高僧のような精神には

到底達せない。

しかし、認知症になればそれが可能になる。

過去の記憶の多くを失った認知症の人は

そんな「今、ここを生きる」がしやすいように

脳の構造を自ら作り変えているのかもしれない。

そして、それが老いに対する恐怖、

死に対する恐怖からの解放につながるのだろう。

 

もちろん、いわゆる医療的エビデンスはない。

ただ、僕も義母を見ていて、

三好さんと同じようなことを感じている。

もしこうした考え方が社会に浸透すれば、

認知症への対応はもちろん、

人生全体に対する考え方にも変化が生まれるかもしれない。

 

ちなみにここで書いた三好さんの発言は、

YouTube「Deathフェス2026:4月11日」の

最後のトークセッション「AI×死」の中で聴ける。

(8:02:40以降)

興味があれば下記リンクよりどうぞ。