おりべまこと電子書籍 新刊発売! 中編小説「弱虫軍鶏と恐竜拉麵」

 

「チキン」という言葉が示す通り、弱虫と鶏には深い縁がある。

ラーメン屋で修行中の語り手の「おれ」は、

仕入れ先の武蔵軍鶏が「喧嘩しない軍鶏」だと知り、

それを生み出した老養鶏家・風間晴仁に会いに行くことになる。

 

昭和20年代の食糧難の時代、

「鳥のように自由に生きたい」と願った少年・晴仁が、

農学博士の言葉に背中を押され、

風吹き抜ける春川の地に養鶏場を開いてから60年。

ブロイラー旋風に流されず、己の信念を貫きながら、

県の畜産技官と共に挑んだのが「喧嘩しない軍鶏」の開発だった。

 

弱虫を選抜し続けるという逆転の発想、

老舗料理店の頑固な主人との長年にわたる対話、

そして「昔そのままではなく、今の時代の魂を持った鶏を」

という境地——長年にわたる格闘の末、

武蔵軍鶏はついに誕生する。

 

本作の魅力は、鶏をめぐる物語が、

そのまま人間の生き方の物語へと重なっていくところにある。

養鶏、絵画、合唱——

晴仁にとってそれらは「ぜんぶ同じこと」であり

命を育て、美しいものを作ることだと語る。

 

その哲学は、修行中の「おれ」や、

一度は逃げ出しながら戻ってきた弟子・

田中の生き方にも静かに宿っていく。

「弱虫が育てた弱虫の鶏が、今の時代は一番強い」——

ラーメンの湯気の向こうに見える、

食と命と自由をめぐる連鎖が、

 

読む者の胸に熱くじんわりと広がる快作。