追悼・美輪明宏さん 永遠のヨイトマケ

 

今日、美輪明宏さんの訃報を聞いた。

3年前に書いたエッセイの最後で僕は

「令和の時代になっても、いや、令和になったからこそ、

日本人にはまだ美輪さんの存在が必要なのだ」と書いた。

その美輪さんがこの世界から旅立った。

僕たちを照らしていた美しい星が流れて消えた。

この星の輝きの記憶を

僕たちはずっと繋ぎ止めておかなくてはならない。

美輪明宏さんのご冥福をお祈りします。

 

終活の懐メロ123 ヨイトマケの唄/美輪明宏【1965】

 

日本の至宝、昭和の至宝 美輪明宏が

自ら作詞・作曲し、あらゆる世代の日本人に贈る聖歌。

それが「ヨイトマケの唄」である。

 

最初にレコードが出たのは1965年。

マンガなどで「母ちゃんのためならエンヤコーラ」

というセリフが良く出ていたのを覚えている。

そして桑田佳祐をはじめ、たくさんの歌手がこの歌を愛し、

カヴァーしているのも聴いていた。

けれども美輪明宏自らが歌うのをまともに聴いたのは、

若い世代と同じく、2012年の紅白歌合戦が初めてだった。

 

紅白なんていつも酒を飲んでへべれけになって見ているのだが、

真っ黒な衣装に身を包んだ美輪が登場し、

この歌を歌い出した時、思わず背筋がピンと伸びた。

6分間、テレビから目と耳を離すことができなかった。

 

故郷の長崎で原爆に遭遇して以来、波乱万丈の人生を送り、

数々の修羅場をかいくぐりながら70になっても80になっても

元祖・ビジュアル系歌手の誇りを失うことなく

輝き続ける美輪明宏の、

人間への愛情のすべてがこの一曲に集約されている。

 

この歌が生まれた経緯は自身で、

また、黒柳徹子との対話で語っている音声が

YouTubeに上がっている。

 

1960年代前半、三島由紀夫が「天上界の美」と称した

絶世の美青年だった美輪明宏(当時は本名・丸山明宏)は、

きらびやかな衣装と化粧でシャンソンを歌っていた。

ところが、興行主の手違いで

岡・筑豊の劇場でコンサートを行うことに。

客は普段シャンソンを聴きに来る人たちとは

まったく違う炭鉱労働者たちだ。

そんな人たちが自分の歌を聴こうと

客席を埋め尽くしたことに美輪は感動したが、

内心、自分のレパートリーには、

この人たちのために歌える歌がないとすまなく思ったという。

そして、外国には労働者の唄があるのに日本にはなぜないのか?

という疑問も抱いた。

 

「ヨイトマケ」とは「ヨイっと巻け」。

現在あるような建設機械がまだ普及していなかった時代、

地固めをするとき、重たい岩を縄で滑車に吊るした槌を

数人掛かりで引張り上げて落とすという作業をしていた。

この滑車の綱を引っ張るときの

「ヨイっと巻け」のかけ声が語源となっている。

この仕事は主に日雇い労働者が動員されていたらしい。

 

「ヨイトマケの唄」は、そうした戦後復興期の物語であり、

まさしく現代の日本の豊かな社会の

「地固め」をしていた時代の唄だ。

炭鉱をはじめ、新幹線を走らせるために山にトンネルを掘り、

川に橋をかけ、街に高速道路や高層ビルを建てるために

たくさんの名もなき労働者が働いていた。

そうしたあちこちの工事現場では

不幸な事故で命を落とした人も少なくない。

普段は意識などしないけど、

インフラの整った僕たちの社会生活は

そうした犠牲の上で成り立っている。

 

この歌を彼が初めてテレビで歌った時、

「これはおれたちの歌だ」と、彼の元に

7万通の感謝の手紙が送られてきたという。

しかし、その一方で高度経済成長の波に乗り始めていた日本人は、

少しでも早く貧しい時代の記憶を忘れようとしていた。

貧しい者、卑しき者、美しくない者は

目にしたくない、耳にしたくないと思っていた。

この歌の歌詞の「土方」でさえも差別用語であるとして、

以後、長い間、この歌は歌われなかった。

 

77歳で紅白に初出場した時、若い世代はあの「美輪ちゃま」が

どんなゴージャスな衣装で登場するのか

大いに期待していたらしいが、

この黒ずくめのスタイルを見て驚愕、

そしてこの歌をフルコーラスで聴いて慄然とした。

カメラは一切寄ることはない。

まるで舞台劇を見ているかのような、

魂を揺さぶるパフォーマンス。

昭和の時代に圧倒的なリアリティで人々を感動させた歌は、

半世紀後、“俗”を描き切った、聖なる物語に達していた。

 

最後、闇に溶けていく中で「子どものためならエンヤコーラ」と

絞り出す声には何度聴いても涙が抑えられない。

美輪さんがまだ元気で表現活動をされていてよかった。

令和の時代になっても、いや、令和になったからこそ、

日本人にはまだ美輪さんの存在が必要なのだ。

 

(2023年02月24日投稿のブログ記事を再採録)

 

 

 

「終活の懐メロ123 ヨイトマケの唄/美輪明宏【1965】」は、電子書籍「週末の懐メロ第5巻」にも入っています。

その他、32編の音楽エッセイを採録。