週末の懐メロ153:ザ・ラストリゾート/イーグルス

 

1976年にリリースされたイーグルスのアルバム

「ホテルカリフォルニア」は、

数あるロッククラシックの中でも

指折りのレコード、名盤中の名盤として名高い。

特にアメリカにおける存在感は抜群だ。

 

かのアルバム、そして、イーグルスというバンドが

そこまで持ち上げられるのは、

アルバムの最後を締めくくるのがこの曲だから、

ではないかと想像する。

 

表題曲の「ホテルカリフォルニア」は

60年代ロックカルチャーの商業化・低俗化を

揶揄した歌だが、皮肉なことに彼ら自身が、

アメリカで最も商業的に成功したバンドの一つとなり、

矛盾を抱えたまま半世紀間、活動してきた。

トータルセールスは2億枚を超えると言われている。

 

「ザ・ラストリゾート」も

そんな大いなる矛盾を拡大したかのような、

アメリカという国そのもの、

現代の文明社会そのものを批判した歌だ。

 

♪They call it paradise, I don't know why

 彼らはそこをパラダイスと呼ぶ 私には理由が分からない

 

歌詞のストーリーは開拓時代を歌ったもの。

大西洋を渡ってやってきた白人の入植者たちが

広大なフロンティアを「パラダイス」と呼び、

先住民を迫害し、野生動物を殺戮し、

山を森を切り開き、自然環境を破壊し、

自分たちの街を、国家を作り上げていった。

 

♪We satisfy our endless needs and justify our bloody deeds

 私たちは果てしない欲望を満足させて

 血まみれの悪行を正義とした

 In the name of destiny and in the name of God

 運命という名のもとに 神の名のもとに

 

さらにここが「The Last Resort(最後の楽園)」だとして、

海の向こうからどんどん移住者を呼び寄せ、

この世の楽園である近代国家を作り上げた。

実際、開国時代の冒険者・開拓者たちにとって、

その活動は神の導きによる愛と正義の表現だと

信じていたのだろう。

 

そして20世紀を迎えて間もなく、

アメリカは世界で最も富める国・力を持つ国となり、

金さえあればどんな夢でもかなう「楽園」となった。

 

けれども年月を経て、楽園を築いた人々の子どもたちは

考えざるを得なくなった。

「わたしたちはどこから来て、どこへ行くのか?」

そして過去を振り返り、違和感を覚えざるを得なくなった。

「わたしたちは正しかったのか?」と。

 

高校生だった70年代、僕は美しく抒情的な旋律を

楽しむだけだったが、

この「ザ・ラストリゾート」は、

表題曲「ホテルカリフォルニア」と対になって、

当時の心あるアメリカの若者たちの胸に

ギリギリと食い込んだのだろうと思う。

 

それから50年近くを経て、人々の意識は、

先住民の歴史やマイノリティの存在、人権の尊重、

破壊してしまった自然環境などにも

向けられるようになった。

 

もちろん、それがイーグルスの歌のおかげだとは言わない。

でも、当たり前のようにある豊かさが

過去のさまざまな犠牲によって育まれたものだと

気付かせるきっかけにはなったのではないか。

音楽は人の心を変える。

人の心が変われば世界が変わる。

たとえ少しずつでも――

まだそんなファンタジーを信じたいと思っている。

 

 

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