映画「ロスト・キング」ーーリチャードⅢ世遺骨発掘の物語

 

何かを達成するのはクレイジーなエネルギーである。

フリッパ(離婚したシングルマザーの中年女性)は、

たまたま子どもの付きそいで

シェイクスピア作の「リチャードⅢ世」の舞台を見る。

それが彼女の人生を変えた。

 

リチャードⅢ世の霊が彼女にとりついた。

あの世からやってきたリチャードとの対話から

彼の遺骨が墓にも納められず埋もれ、

名誉を棄損されていることを知る。

そして8割方インスピレーションによって、

その遺骨の眠る場所を探り当てる。

 

こう書くと、荒唐無稽なオカルト映画、

あるいはインディー・ジョーンズのような

考古学者の冒険譚なのかと思うかもしれないが、

これは事実をもとに作られた映画である。

 

英国レスターにおいて

リチャードⅢ世の遺骨発掘が行われたのは、

わずか5年前。2,018年のこと。

 

国営放送BBCは、そのドキュメンタリーを作ったが、

それを劇映画化したもの。

脚色・演出はされているが、

ストーリー自体は事実そのもである。

 

主人公のフリッパは、

もともと考古学に縁もゆかりもないもない。

「リチャードⅢ世」は、知る人ぞ知る、

シェイクスピア劇の中でも屈指の人気を誇る作品だ。

 

リチャードがこの世を去って1世紀後、

シェイクスピアがその伝説をもとに造形したのが

せむしで醜く、心も歪み荒んだ極悪の王。

その残虐非道さ故、

英国歴代の正当な王とは認められていなかった。

 

しかし、リチャードの人柄と行為は、

彼のあとに政権を握った王朝が、

自らの正義を民衆に示すために捏造したものだった。

ちょうど明治政府が徳川幕府の政治を貶めたように。

江戸幕府の開幕時、

徳川家が豊臣家の影を消し去ったように。

 

フリッパはリチャード(の幻影)との対話と、

あくなき調査によってそのことを確信し、

遺棄された彼の遺骨のありかも突き止め、

孝行学者と大学を動かして発掘調査を行う。

 

あくまでドキュメンタリー風の作品なので、

ドキドキハラハラみたいなエンタメ感は乏しいが、

面白く、妙に感動的な映画だ。

 

フリッパの行動の動機は、

世紀の発見をして歴史を覆してやろうといった

崇高な目的や野心のためでもなく、

もちろん一発当ててやろうという金儲けや

損得勘定のためでもない。

 

本当に霊に取りつかれてしまったか、

リチャードに恋をしてしまったか、

要ははた目から見たらめっちゃクレイジーな熱意なのだ。

それでも元夫や子供たちは彼女を応援し支える。

 

あくまでドキュメンタリー風の作品なので、

ドキドキハラハラみたいなエンタメ感は乏しいが、

そうした家族愛もあり、面白く、妙に感動的な映画だ。

 

そしてもう一つ。

彼女が自分の発想で、単独で始めたことを、

世紀の大発見という成果が得られると、

ちゃっかりその手柄を横取りし、

自分たちの栄誉にしてしまおうとする

大学や学者の在り方も、

リチャードを貶めた次期王朝権力と重なって面白い。

 

歴史は常にその時々の勝者・成功者・権力者が

つくってきたものである。

僕たちが英雄と信じている人が、

とんでもない悪人や詐欺師だったり、

悪漢や愚者だと思っていた人が、

実は英雄だったりすることもある。

インターネットが発達した世の中では

そうした驚くべきどんでん返しも起こり得る。

世界はまだまだ神秘にあふれ、

変化していく可能性を孕んでいる。

 

歴史が深く、多彩な物語が眠る英国だから作り得た

と思われるこの映画は、

そんなことまで考えさせてくれる。