豊臣秀吉とジャニーズ 英雄の凋落と昭和システムの崩壊

 

大河ドラマ「どうする家康」では

ムロツヨシ演じる豊臣秀吉の最期が近づいている。

 

次回予告を見る限り、

秀吉は側室である茶々(淀の方)に復讐され、

(心理的に)殺されるという展開らしい。

北川景子が市と茶々(淀の方)の母娘二役なので、

予想はしていたが、やはりショッキングだ。

 

太閤・秀吉の死因は病死だが、

天下人としてはあまりに寂しいものだったことは

長年の謎とされている。

 

それをここまであからさまに

愛人の憎しみによってとどめを刺される

というストーリーは前代未聞であり、

衝撃を受ける人は多いのではないだろうか。

 

茶々は家康が思いを寄せた市の娘であり、

乱世のなかで非業の死を遂げた

信長と市というカリスマ兄妹が

転生した存在とも言える。

 

父(浅井長政)と母(市)を殺し、

自分を凌辱した男に対する凄まじい復讐。

彼女が一種のモンスターとなって

最後に家康の前に立ちはだかるというのは

ドラマとしてすごいダイナミズム。

市と淀を見事に演じ分ける北川景子の演技は

(あざとさも含めて)ヤバすぎる。

 

秀吉は昭和の成長時代、

庶民にとって英雄以外の何者でもなかった。

戦国武将の中でも人気抜群であり、

百姓の子せがれから天下人に成りあがった

サクセスストーリーは、誰もが見習うべきものであり、

みんなが尊敬すべき人物だった。

 

それが平成時代を通して、

徐々にそのヒーローの皮がはがされていき、

負の部分も含めて人間くさい側面に

光が当てられるようになっていった。

 

そして令和の今、このドラマでは

かつての英雄像の「凋落」ともいえる扱い。

その伏線は昨日の放送回における

高畑淳子演じる大政所(秀吉の母・仲)の

臨終のセリフに現われている。

 

「あの息子は自分が本当は何を欲しかったのか、

自分でわからなくなってしまった」

 

このドラマは家康が主役なので、

秀吉がなぜあれほど民衆に慕われ、

人を惹きつけたのかといった

ポジティブな面はほとんど描かれない。

 

逆にその俗物的な部分や、

自分の欲望を満たすためには手段を選ばない

あくどさばかりが強調されていることに

秀吉ファンは怒りさえ覚えるだろう。

 

僕はべつに秀吉ファンではないが、

地元の名古屋で育ったので、

やはり秀吉は尊敬すべき英雄であり、

いわば正義の基準だった。

 

ちなみに名古屋駅には太閤口という玄関があり、

太閤通りという道路が走っている。

名古屋の人たちは、まさかわれらが太閤様が

テレビドラマでこんなふうに描かれる時代が来るとは

夢にも思っていなかっただろう。

 

ドラマは時代の変化・価値観の変化を

如実に表すメタファーである。

こうした秀吉像の変化は、

リアル世界では芸能界の英雄として亡くなった

ジャニー喜多川氏と重なる。

 

製作者側はもちろん、そんなことは意図していない。

これは僕の個人的な見解だが、

まんざら見当違いでもないと思う。

 

今年のはじめ頃、ジャニー氏がここまで国内で糾弾され、

彼の犯罪を隠蔽し、王国を守ってきた

ジャニーズ事務所がこんな惨状になろうとは、

少なくとも一般人は誰も予想していなかった。

 

長らく日本を支え、生き延びてきた昭和システムが

音を立てて崩壊したのだ。

この事実は芸能やマスコミの世界のみならず、

いろいろな所に波及していくだろう。

 

日本の社会を覆っていた昭和の幻影が拭い去られた———

まだ1年を振り返るのには早すぎるが、

この先、令和5年、2023年は

そういう年として記憶されるかもしれない。