杉並ラプトル・オオタカ物語

 

お正月も終わったが、

今年は元旦に川沿いを散歩していたら、

杉の木のてっぺんでオオタカが雄姿を晒していて、

こいつは縁起がいいと思わず拝んでしまった。

オオタカのお正月スペシャルサービス?

 

おかげで初夢も見た。

仕事仲間とタクシーに乗って

銀座や原宿に行くという

わけのわからない夢だったが、

まぁ悪い夢ではない。

もしかして今年は仕事が忙しくなって

がっぽり儲かる夢--と解釈できなくもない。

どうせ意味などわからないので、

いいようにとっておこうと思う。

 

それにしても縁起の良い初夢が、

どうして1富士、2鷹、3茄子なのか?

諸説あるようだが、有力なのは徳川家康がらみの説。

家康は三河(愛知県)の生まれだが、

江戸に幕府を開くまで長い間、

拠点にしたのは駿河の国(静岡県)。

 

静岡の名物と言えば富士山。

一番高いのは富士山だが、

次に高いのは空飛ぶ鷹、三番目は初茄子の値段。

というシャレの世界。

 

また、富士山の国で暮らしていた家康が

鷹狩りが好き、茄子も好物という説もあり、

鷹は獲物をつかみ取る。

家康のように天下をつかみ取ろう、

学芸でも商売でもその世界のトップになろうと

願をかける意味合いがあったらしい。

 

うちの近所のこの川沿いの杉の木に

オオタカが住み着くようになって

もう5、6年の年月が経つ。

 

昨年はクマやイノシシなど、

元来、山に住む動物たちが街に出てきて

人間に危害を加える事例が頻発し大問題になったが、

いま動物たちは長年の経験で

人間に慣れて恐れを抱かなくなり、

人間の生活圏に侵入することに

抵抗を感じなくなってきたようだ。

 

「人間はこわくない」

「人間が住んでいる場所にはうまいものがある」

「だいじょうぶ、いける、いける」

 

個体ごとに経験則を学ぶのか、

それとも世代間で情報が受け継がれるのか

わからないが、だんだんそういうことが

山の動物の間で常識として

広がってきているのかもしれない。

だとすれば人間が暮らし方を変えるか、

動物との付き合い方を変えなくてはいけない。

どうやらそういう時代になってきたようだ。

 

さて、わが杉並区のオオタカもまたしかりで、

住み着き始めた当初は、人目を警戒して

常に高い木のてっぺんあたりからめったに下りず、

天空の生活圏から出てこようとしなかった。

 

近所のカメラマンの人たちはそれこそ

野生動物専門のプロカメラマンのように

一瞬でもその姿を捕らえようと、

毎日木の下をウロウロしながら

朝から日暮れまで何時間も張っていたが、

幾たびも子育てを重ねるうちに、

だんだんオオタカたちは大胆に姿をさらすようになった。

 

人間は遠目で見ているだけで、近づいてこないし、

ましてや捕まることなんてありえない。

そうしたことをしっかり学習したようで、

低木に、時には地面に降りて餌を食うようになった。

もちろん、バシャバシャ写真撮りまくりである。

 

また、割と低空飛行でゆうゆうと飛ぶところ、

「ほーら、見てごらん」とでも言いたげに、

川を横断して人目に付く木の枝に止まり、

モデルのごとくポーズを取るといった行為も

見せるようになった。

翼を広げたオオタカはやっぱりカッコいい。

 

びっくりしたのは昨年秋。

11月ごろのことだったので、

まだ2カ月ほど前である。

 

夕方近く、義母と散歩中に

カルガモがひどくざわつく声が聞こえるので

なんだろうと川を見たとたん、

オオタカがシャーっと舞い降りてきて

一羽のカルガモを足でムンズとつかみ、

あっという間に連れ去った。

わずか3秒くらいの出来事だった。

 

身体は小柄だったが、

ヒナではなくおとなのカモである。

このあたりのオオタカは

ハトやムクドリを常食としているが、

何が起こったのか?

 

あの時は常駐のカメラマンたちも大騒ぎで、

聞いてみたらカモを襲ったのなんて

初めて見たとのこと。

まさにラプトル(猛禽)!

 

もともと飼いならされて鷹狩りに

使われていたぐらいだから、

人間と相性がいいのだと思うが、

人慣れしてきたオオタカは今年は

どんな暮らしを見せてくれるのか、楽しみである。

まあ、クマ、イノシシ、サルなどと違って

安心して見ていられるから

こんなのんきなことが言えるのだけど。